『ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ』を見て
5月25日公開の代島治彦監督『ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ』をオンライン試写で見た。私は試写は会場に行くのを原則としているが、これは日程が合わなかった。私の教える大学で学生向けの試写をする話もあり、オンラインで見ることに。
見終わって、やはり劇場で見たかったと思った。それは真っ暗な空間の方があの時代を自由に想像しやすいから。2024年の明るいマンションの自宅では、やはり1972年の亡霊は出てこない。それにしても52年が過ぎているのに、その頃のことを鮮明に語る人々がこんなにいるとは。
このドキュメンタリーは、2021年に出た樋田毅著『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』をもとにしている。この本は私は読んでいないが、この著者のその前の『記者襲撃』は読んだ。『彼は早稲田で死んだ』を読まなかったのは、内ゲバの話はもういいや、と思ったから。
ところが映画を見ると、するすると引き込まれる。基本的には1972年11月8日に早稲田大学文学部の教室内で革マル派に殺害された文学部2年生の川口大三郎さんをめぐる話である。当時、早稲田大学文学部自治会は革マル派が支配しており、例えば法政大学は中核派など「拠点校」があった。
なぜ川口さんが殺されたかと言えば、中核派のスパイだと間違えられたから。当時の川口氏の同級生や一つ上や下の後輩たちが出てきて、それを証言する。そして現代の若者がそのリンチの場面を再現する。最初、テレビの再現映像のようでダメかなと思ったが、それが実に正面から取り組んでいて悪くないと思いだす。
再現部分は途中から、出演者のオーディションやリハーサルや本番の撮影シーンまで見せることで、現代の若者がどう演じるかが見えて逆に興味深く見えてくる。演出しているのは、有名な学生運動をテーマの演劇を手がけた鴻上尚史だった。出演する学生に向けた、日本の左翼史についての池上彰の講義まである。彼に必死で質問する学生たちがいい。
映画は川口事件の後も語る。11月13日には文学部で3000人を超す学生の集会があり、革マル派の自治会委員長が必死で弁明をする。17日は学生葬が行われる。『彼は早稲田で死んだ』の著者、樋田毅は1年生ながら臨時自治会委員長になる。そこまではよかったが、行動委員会なる団体が出てきて、黒ヘルをかぶり武装して革マルを追い出し、総長を拉致する。
それからは悲惨で、革マル派は反撃に出て樋田は全治1か月の重傷を負う。新自治会も武装する。翌年9月には革マル派の2名が殺される。その同級生たちの証言。そして内ゲバは続き、全体で100名近くの学生が殺された。
川口事件が起きた1972年は、春にあさま山荘事件が起きた年だ。日本の学生運動はなぜ内ゲバに向かったのか。最近見たマルコ・ベロッキオ監督の5時間半『夜のリハーサル』も70年代イタリアのテロの話だ。日本、イタリア、ドイツの敗戦国では、なぜ学生運動が終結した70年代にテロが頻発したのか。大きな謎である。
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