『蛇の道』を楽しむ
黒沢清監督の『蛇の道』を劇場で見た。実はこれは監督自身が1998年に作った同名の映画のリメイクだが、違いは今回はフランスが舞台で日仏の俳優が出演していること。私は旧作を見ていないが、十分に楽しんだ。
最初、柴咲コウがパリの路上にのそりと出てきてフランス語でダミアン・マニヴェルに話しかけた時、そのアクセントに大丈夫かと思った。しかしアルベール役のマニヴェルはいつものようにゴモゴモと話す。彼らの最初の標的であるラヴァル役のマチュー・アマルリックが出てきて、催涙銃でやられて大きな袋に入れられて巨大な廃墟のような倉庫に運ばれるあたりから、いい感じが出てきた。
そこでは両手両足がチェーンで縛られ、トイレにも行けないし食事はわざと手前に落とされる。ラヴァルはムナール財団の会計係でアルベールの娘の殺害に関わったようだ。アルベールは娘の映像を見せて、彼女が悲惨な死を遂げた報告書を読み上げる。このあたりから何だか儀式めいてリアリティが失われてゆく。その分、ジャンル映画的な味わいが出てきて妙に楽しくなる。
アルベールはいつもその倉庫にいるが、柴咲演じる小夜子は病院の心療内科の医者だ。診察室にはフランスの生活に馴染めない日本人の患者(西島秀俊)もやってくる。日本にいる夫(青木崇高)とはオンラインで話すが、小夜子は一切表情を見せない。
ラヴェルの話から財団の実力者のゲラン(グレゴワール・ゴラン)が娘の殺害に関わったと知り、アルベールと小夜子は田舎に住むゲランも拉致してくる。小夜子は連れて来た2人と話し、別の男を犯人に仕立てたらと持ち掛ける。
2人は警備係のクリスチャンの名を挙げるが、もう1人をそこに拘束する場所がないために、小夜子は2人に殺し合いを提案する。そうして1人は死に、生き残った1人も殺される。さらに連れて来られたクリスチャンも。陰惨極まりないが、妙におかしい。
ところが殺人にはアルベールの妻が関わっていた事実が明らかになり、さらに小夜子の秘密も露呈してきて、物語は雪崩を打って壊れてゆく。3人は関係があったのか。どんどん人が死に、次々に秘密が明らかになる。ぶっきらぼうな柴咲コウのフランス語と表情一つ変えない硬質な佇まいが、優柔不断なダミアン・マニヴェルと好対照で抜群。
さすが黒沢さん、ここには映画しかない。それにしても今頃公開するということは、カンヌを狙ってうまくいかなかったのだろう。カンヌは日本人監督がフランスで撮る映画にいつも厳しいから。彼の『ダゲレオタイプの女』も是枝監督の『真実』もカンヌは断った。まだ日本だけしか公開していないようなので、意外にロカルノやベネチアでやるかも。
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