『バティモン5 望まれざる者』に考える
ラジ・リ監督の新作『バティモン5 望まれざる者』を劇場で見た。この監督はとにかく『レ・ミゼラブル』(2019)があまりに強烈で、それをあちこちに話していたら監督が来日した時にインタビューする機会に恵まれたほど。
監督自ら移民2世でパリ郊外の移民地区の問題を描くという政治的映画でありながら、即興的な演出とサスペンス構造が実にうまくからみあっていた。監督自身はインタビューで「三部作」にすると言っていたから、次が楽しみだった。
結果としては、興奮したが前作には及ばなかった、という感じか。前作は監督自身が住むレ・ボスケ団地の住民(最後は子供たち)と警察の戦いを描く。しかし住民には警察と通じる者もいればイスラム原理主義者もいて、多層をなす。3人の警察官がそれに挑むが、リーダー格の白人の強硬派、黒人の穏健派に加えて地方から来た常識のある新人の3人は、それぞれ考えが異なる。
今回はそのような層の厚さが弱く、急死した市長に代わって党内政治で市長代理になったピエール(前作の強硬派のアレクシス・マネンティ)が移民のことを深く考えずに、横暴な政策を打ち出す。それを黒人の副市長は何とかやめさせようとするが、誰も止められない。
未成年者の午後8時以降の外出を禁じたり、火事を出した棟を突然立ち入り禁止にして住民を追い出したり。反対する住民は警察が端から拘留する。住民の怒りは頂点に達し、悲劇へと向かう。
途中からは福祉スタッフでアフリカ系女性のアビーが市長選の立候補を宣言しておもしろくなりそうだが、尻切れトンボの印象。結局、市長に直接抗議したほかは、彼女のボーイフレンドが極端な行動に出るのを押さえるだけに終わる。彼女が住民側では唯一の理性的存在なのに。
それでも住民たちが建物から追い出される時の迫力は凄まじい。まずは火事で全員が慌てて外に出る。ようやく戻ると警察は緊急避難を命じて各戸を叩いてすぐに出ろと叫び、住民は何とか家のものをすべて持って行こうと、ローンの残っている冷蔵庫を2人で階段で降ろしたり(エレベーターがない)、窓からベッドやソファを1階に投げたり。この住民たちの怒りの爆発は前作同様に強烈だ。
それにしてもなぜ「バティモン5」という邦題にしたんだろうか。仏語原題はBatiment 5で確かに「バティモン」と発音するが、日本語では意味不明。せめて英語題の「ブロック5」や直訳の「5号棟」の方がマシだったと思うが、もっと邦題を考えて欲しかった。
60年代の高度成長期に旧植民地から連れて来た移民たちとその子孫を、パリ郊外のボロ団地に押し込めてしまったフランスの闇は深い。もはや中流階級の白人フランス人との和解はありえないのではと思ってしまう。この映画では出てくる白人が、全員悪人か偽善者に見えてしまう。私はフランスには何十回も行ったが、移民の友人はほぼいないのだから底が浅い。
日本もようやく移民を受け入れてゆく政策に転換しつつあるが、こうなる可能性も十分にあるだろう。
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