猛暑に『アイアム・ア・コメディアン』を見る
「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔は前から気になっていた。テレビは見ないから、彼がお笑い番組に出ていたのは知らない。たぶん4、5年前にたまたまフェイスブックで触れられていて、AbemaTVの映像をユーチューブで見たのが最初かもしれない。
とにかく当時の安倍首相を叩き、原発政策を笑い飛ばし、沖縄に集中した基地を問題化する。あるいは被災地に集まった役に立たない救援物資を馬鹿にする。つまりは体制や保守的な人々が一番言われたくないことをネタにして笑わせる。それも驚異的な早口で。
そんな彼を日向史有監督が追いかけた 『アイアム・ア・コメディアン テレビから消えた男』は2年前の東京国際映画祭で上映されて話題になっていた。いつか見たいと思っていたらようやく映画館にかかった。なかなかの入りだと聞いた。
このドキュメンタリーは、彼のいい場面だけを見せるのではなく、あえて悩みながら生きてゆく日常の姿を交えて見せる。それは日向史有監督が『東京クルド』(2021)で見せた手法で、とにかく対象に寄り添って相手との共感の中から生み出す映像だ。
私は単純にこの村本という鬼才がどんな人間なのか、興味があった。それはこの映画で手に取るようにわかった。勉強はできないが妄想癖があって実行力があり、みんなに愛されるタイプである。中学では成績はビリで中学卒業したらどうするかと聞かれて、ブラジルでサッカー選手になると答えたという。サッカーをやっていなかったのに。
彼は大阪の吉本興業に入り、「ウーマンラッシュアワー」として売り出す。10年近く年に200回以上テレビに出ていたのに、政治ネタを話し出してからテレビから締め出される。そこで舞台だけでやろうとするが、ある時、アメリカで勝負しようと思い立つ。
ニューヨークで日本語のできるアメリカ人と一緒に訓練をする。いつもメモを持ち歩き、アメリカ人に聞きながらメモをする真面目さ。昼間に数名しか客のいない舞台でやるが、全く受けない。「大阪でも僕はこういう道を通ってきたからここでもやる」とめげない。しばらくして別の舞台でやるが、今度は客も多くキリスト教ネタなどが受けた。
日本に帰ってアメリカで暮らす金を稼ごうと舞台を予定するが、コロナ禍ですべて中止。そして福井の両親に会いに帰る。両親は別居しているようだが、どちらも明るく元気。父親は「そんなに世の中を変えたいなら政治家になれ」と言うが、「おれはお笑いで民衆の考えを変えてゆく」と堂々と答える。
最後のあたりの東京で1000人を集めた公演では、政治の話よりも人生について語った。公演が終わって幕がおりた向こうでじっと立ったままの村本をカメラは捉える。そして広島のライブハウスでの公演ではワイン瓶を1本持って舞台に上がり、父が亡くなった話をする。
不屈の村本の姿を見ながら、充実した時間を過ごした気がした。
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