都写美の展覧会2つ
原稿を書き続けて疲れたので、東京都写真美術館に展覧会を見に行った。私にとって「写真」は映画と美術の中間で、気分を変えるのにはちょうどいい。それに都写美は自宅からさほど遠くない。
まず見たのは所蔵品展の「見ることの重奏」。19世紀から現代まで14人の写真家の作品が並んでいる。なかにはウジェーヌ・アジェとかウィリアム・クラインとかマン・レイとか私でも知っている写真家もいて、そのうえその代表作が選ばれている。
何と言ってもアジェのパリの無人の風景がすばらしい。誰もいない回転木馬とか、紳士服店のマネキンとか。このあたりは明らかにヴェルトフの『カメラを持った男』の大都市の風景と呼応している。
そして突然、30人くらいの紳士淑女が目に手や紙をかざしながら同じ方向を見る《日食の間》(1912年)が現れる。唯一、人が出てくる写真なのに、みんなが静止し、目を塞いでいるおかしさといったら。シュルレアリストたちが、アジェの写真を好んだことがよくわかる。
展示はあえて写真家の生年などをパネルに書いていない。現代の写真も古典に普通に繋がっていることを見せたかったのだろうが、やはりあった方がいい。現実を機械で写し取る写真はどう見ても歴史的産物なので、時代を無視しろというのは無理がある。
地下の「光と動きの100かいだてのいえ」が秀逸だった。最初の1/3に映画前史が見せられ、それからそれらにインスピレーションを受けた岩井俊雄の作品が並ぶ。フェナキストスコープなど触って自分で試せるので楽しい。
そして岩井俊二がこれまでに作ったインスタレーション作品が並ぶ。《時間層Ⅰ》や《時間層Ⅱ》などとても1985年の作品とは思えないほど、今見ても新鮮。《時間層Ⅲ》(1989年)、《時間層Ⅳ》(1990年)も同様で、まとめて見るとこの作家の独自性がよくわかる。
さらに彼は19世紀の映画前史を自分で作品を作って再構築している。あるいは『映像装置としてのピアノ』(1995)や《Floating Music》(2001年)などインタラクティヴなものも楽しい。映像というメディアが好きでしょうがない人の作品だと思う。
それは彼が小学生の時の「工作ブック」やノートの片隅に描かれた「パラパラマンガ」を見るとよくわかる。高校2年生の時に古川タクの作品集で「驚き盤」の画像に釘付けになったというのだからすごい。私と同世代とは思えない。ぜひ映像、映画を学ぶ学生に見て欲しい。共に11月3日まで。
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