『方舟にのって』を見る
『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』を劇場で見た。「TBSDocs」と最初に出てくる通り、TBSの製作で監督は社員の佐井大紀。この人は『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』を見たが、あまりおもしろくなかった。
それでも見に行ったのは、1980年頃、あれほど世の中を騒がした「イエスの方舟」事件のその後を見たいと思ったから。さらにTBSだから当時の映像がたくさんあるはずで、今見たらどう思うか興味があった。
結果はやはりおもしろかった。まず一番驚いたのは、教祖の千石剛賢が「千石イエス」と呼ばれたのはマスコミが名付けたものだということ。当時、大学には合格したが病気で休学していた私は新聞やテレビでこのニュースをよく見た。てっきり本人が名乗っていたのとばかり思い込んでいた。
そして当時の彼の様子が、極めて紳士的で話しぶりも静かなことにもびっくりした。突然若い娘10人を連れて失踪し、全国を逃げ回っていたニュースを知っているから、とんでもないエロじじいかと勘違いしていた。不起訴処分になって娘たちはいったん両親のもとに帰ったが、多くは舞い戻ったと聞いていた。
その後、福岡の中洲で「シオンの娘」というバーを開いてみんなで働いているという話を聞いた。集中講義で京大から1週間教えにきた仏文学の先生が行ってみたいと言っていた。新聞社に勤めたら、行ったことがある記者は何人もいた。私は何か気持ち悪くて、全く興味がなかった。
この映画でわかるのは千石剛賢が苦労人であること。いろいろな仕事を転々として包丁を研いだこともあったことから、教団を作ってからはみんなが包丁研ぎで暮らしていた。それでは食えないから娘たちはキャバレーに勤め、バーを開いた。ホステスだが酒を飲まず、同伴もなしで、あくまで話をする。今ではそれぞれが歌や楽器や踊りなどの芸を披露する。それがほぼ同じメンバーで今まで続いている。
集まってきた女性の多くに家族で問題があった。それが教団に入って楽しい毎日のようだ。そもそもこの教団は宗教法人にしていない。バーを経営している集団でしかない。中洲のバーが再開発で閉じ、教団兼アパートのあった近郊の古賀市にバーを作った。千石剛賢は2001年に亡くなるが、その教団兼アパートを工事している大工姿は何とも微笑ましい。
演出は思わせぶりでいかにも民放のドキュメンタリータッチだが、とにかくこの教団の現在を全員顔出しで見せたことはすばらしい。宗教とは何かについて考えさせられる。
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