真夏の長い映画:『夜の外側』から『至福のレストラン』へ
とにかく暑すぎる。こういう時に一番いいのは、とびきり長い映画を観ることだ。まず半日はつぶれるし、この夏にやる巨匠の2本は満足度が高い。既に上映中なのが、マルコ・ベロッキオ監督『夜の外側 イタリアを震撼させた55日』で5時間40分。
ここに書いたように私は2度見た。全く飽きないというか、2度目の方が面白かったくらい。1978年のイタリアのアルド・モーロ誘拐殺人事件を、モーロ本人、腹心のコッシーガ内相、ローマ教皇、妻などの視点から描いたもので、私にとっては今年1番の傑作だ。
そして8月23日に公開されるのがフレデリック・ワイズマン監督の『至福のレストラン 三ツ星トロワグロ』で、こちらは4時間。『夜の外側』が終始ドキドキしながら見続けるのと違って、こちらはレストランとその周囲の描写が淡々と続く。ところがだんだんおもしろくなっていって、見終わると満足感がこみ上げるからあら不思議。
「トロワグロ」は言わずと知れたフランス中部の有名レストランだが、親子三代で55年間ミシュランの三ツ星を持ち続けているという。ところが映画では題名以外では、その名前は一回プレートが出る以外はほとんど出てこない。もちろんミシュランのことも語られない。
そもそもナレーションもクレジットも一切ないから、最初は誰がシェフなのかさえもわからない。見ているうちにミシェルと呼ばれる中年男がオーナーなのかとか、生真面目そうな青年が長男セザールなのかとだんだんわかってくる。あるいは別の小さな店で働く次男レオもいると。
本店にいるスタッフは料理人が20人ほど、給仕が7,8人いるが、その名前も役割も出身国もわからない。しかしだんだんとこの料理人はかなり信頼されているなとか、これは入ったばかりだなとわかる。
4時間の映画だが、料理を作っている場面は半分もない。マルシェの買い出しに始まって、ミシェルを中心にしたメニュー会議、テーブルセッティング、ワインの仕入れ状況の確認、自然な牧草だけで牛を育てている牧場主との話、料理人のミーティングに給仕人のミーティング、有機栽培の農園、羊の牧場とチーズ作り、チーズ熟成工場などなど。
一番出てくるのはやはりミシェルで、息子たちと打ち合わせ、料理を味見をしてアドバイスを与え、テーブルに行って客と話す。時には厨房で思い付きで文句を言っている感じさえするが、彼あっての「トロワグロ」なのは間違いない。4時間見終わって、やっとそれがわかる。
「トロワグロ」では自分の菜園でシソを育てていて、料理によく使う。客には「日本のバジル」と説明しながら。醤油もあちこちに隠し味で入れる。ミシェルは自分が若い頃に日本に行って運が良かったという。
『夜の外側』のベロッキオ監督は84歳、『至福のレストラン』のワイズマン監督は94歳。こんな長尺をよく作ると思う。全く違う2本を比較すると実におもしろい。真夏の最高の娯楽である。
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