痛快な『ヒットマン』
昔は海外に旅行すると、必ず映画を見た。「日本では見られない」映画を見なくてはと思っていたが、最近は簡単にDVDを買うことができる。そんなこともあって今回の旅行では映画館に行かなかった。旅行前はジョージア映画を数本見たこともあり、久しぶりにアメリカ映画を見たくなった。
選んだのは『ヒットマン』。『ツイスターズ』でも抜群の演技を見せたグレン・パウエルが主演だし、監督は才人のリチャード・リンクレイター。何より、大学の先生が「おとり捜査」のために「殺し屋」=「ヒットマン」を演じるという設定に惹かれた。これが予想以上に痛快な作品だった。
グレン・パウエル演じるゲイリーは、大学で一生懸命に哲学を教えている。その姿を学生は「アイツ、シビックに乗っているんだぜ」と言って笑う。まさかと思ったが、確かにホンダのシビックに乗っており、たぶん小型の便利で安価な車に乗る教授を馬鹿にしているのだとわかってくる。
そんなイケてない教授だが、警察におとり捜査を頼まれるとその真面目さを発揮して依頼人を徹底調査して相手にぴったりの殺し屋になりきり、成功してしまう。誰かが人殺しを探している情報をキャッチした警察が、偽の殺し屋を送り込んでお金をもらって殺しを依頼された現場を逮捕するという仕掛けだが、これがうまくいく。
これがいくつか成功するが、夫の殺害を依頼したマディソン(アドリア・アルホナ)の時は、なぜか「そんな金があったら夫から逃げて自分で生きるべきだ」と説教して失敗する。そこから恋が生まれるが、ゲイリーのおかげで仕事を失った刑事はその関係を見ぬいて執拗に追いかける。
何だかずいぶん複雑な作りだが、これが根本的にあっけらかんとしたお楽しみの精神で作られているために、とにかく見ていておかしい。グレン・パウエルが変身するたびに笑ってしまうし、本当に殺人を犯してしまうマディソンを何とか救おうとするあたりはやり過ぎの冗談のようだ。
それでもそこに人間の真実があると感じさせるところが、製作も脚本も担当したリチャード・リンクレイター監督の手腕。最後には主人公の教えている哲学の授業内容にまでつながっていると思わせてしまう。最近稀に見る知的なアメリカ映画だろう。
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