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2024年9月30日 (月)

『本日公休』に涙する

台湾の傳天余(フー・ティエンユー)監督の『本日公休』を劇場で見た。地方都市の理髪店を描く予告編がいい感じだったし、製作が侯孝賢の『非情城市』などの脚本家、呉念真というのも気になった。結果は、美容師の中年女性の生き方を細かく優しく描く映画で、何度か涙が出た。

映画は、娘が理髪店の自宅に帰ったが「本日公休」の札がかかって母親はおらず、携帯も通じないという場面から始まる。それから物語は少し戻って、台南市で1人で昔ながらの理髪店を営む60代後半(たぶん)のアールイの仕事ぶりや成人した子供たちとの関係を見せてゆく。

長男は定職がなく、太陽光パネルを売ろうとしている。長女は映画のスタイリストをしているが、楽ではない。次女は市内の美容室に勤めているが、結婚した自動車整備工の男と別れたばかり。ところがこの整備工の男は長女との息子と一緒に理髪店にやってきて、アールイに優しい。

小津安二郎『東京物語』で原節子が義父母に一番優しく、義父の笠智衆が終盤で「自分が育てた子よりも、いわば他人のあんたがわしらにようしてくれて。ありがと」と言う場面を思わせるような、元娘婿の存在である。

かつて『客途秋恨』(1990)で母親を演じた陸小芬(ルー・シャオフン)の佇まいがいい。ハサミを巧みに使いながら、老人か子供ばかりの客の希望を聞いて毎回丁寧に仕上げる。好きな女性にもてようと前髪を長くしたいという高校生の希望通りに切るが、後でその母親は高校生を連れて来て「いつものように切って」。前髪をざくりと切られる高校生の顔に悔し涙がにじむが、それを見ているだけで泣けてくる。

冒頭で「本日公休」だったのは、主人公が田舎に引っ込んだ元歯科医の髪を切りに行くためだった。これが実は大冒険で事故にも会うロード・ムーヴィーになるが、何とかたどり着く。しかし再会した歯科医は実はという展開で、ここは本当に泣いてしまった。

彼女だけでなく、子どもたちや娘婿が仕事で苦労する様子も細部までリアルに見せる。美容師の若い頃の修業時代まで見せて、人間が働くことの大変さと楽しさが、じんわりと伝わってくる。

全体としてうますぎるというか巧みすぎる感じもしたが、脚本も撮影も美術も実に細かいところまで丁寧に仕上がっていて、幸福な気分になった。ベロッキオの『夜の外側』やワイズマンの『至福のレストラン 三ツ星トロワグロ』などの巨匠の作品を除くと、最近見た新作で一番よかった。

それにしても、地方都市の中年女性の美容師の話なんて日本でもどこにでもありそうなのに、作り方次第でこんなに見ごたえのある映画になるとは。

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