「ハニワと土偶の近代」に驚く
東博と東近美の両方でこの10月にハニワの展覧会が始まる、と聞いて驚いた。東博はともかく、なぜ明治以降を扱う東近美なのかと思った。ところが展覧会に行ってみたら納得。日本の近現代美術のあちこちにハニワがいるのだから。
つまり、明治初期からハニワは描かれていた。一つには文明開化の時代に古き日本への回顧的な思いがあったのかもしれない。五姓田義松や河鍋暁斎のような個性的な画家ほど描いている。20世紀初頭になると前田青邨や安田靫彦などの日本画家のテーマの一つとなる。
そして第二次世界大戦が始まると大和魂への利用が始まる。紀元2600年のメダルのモチーフにもなった。どうみてもモダニズムのオノサトトシノブや難波田龍起のような画家にもハニワ愛好があったようだ。
戦争が終わるとそのような日本趣味は嫌われるかと思ったが、綿々と続く。「ハニワ」は戦犯であることを免れたようで、「素朴な日本美」として戦時中以上に出てくる。なんと、猪熊玄一郎の絵や原弘のデザイン、イサム・ノグチの彫刻にまで出てくる。
その頃から岡本太郎に代表される「縄文」か「弥生」かの二元論が流行り、「縄文」に属する素朴な日本美のハニワは圧勝である。石元泰博や渡辺義雄の写真は日本の伝統美としてハニワをとらえ、八木一夫らの前衛陶芸はハニワ一色になる。
そしてそれは現代美術や漫画、アニメにまで及ぶ。NHKのアニメで「おーい!はに丸」という番組が何年も放映されたとは知らなかった。こうなるともう怪しい。「ハニワ」は免罪符というか、みんなが好きな「日本美」の典型で、今後はこれを「利用」する美術は信用できない気がしてきた。
この展覧会の企画者はここまでハニワが日本近代に蔓延しているのがわかって、準備していて嫌にならなかっただろうか。近現代日本美術のハニワの氾濫を見て、私は本物のハニワを見に東博へ行きたくなってきた。
展覧会の「意図」が前面に出過ぎたように見えた企画展の後に常設を見た。4階の「ハイライト」で一番最後に舟越桂の《森へ行く日》(1984)があって泣きそうになった。桂さんとサンパウロ・ビエンナーレで展示した作品だ。今はなき彼の笑顔を思いだす。
3階の奥にはいつも戦争画が並んでいる。私はなぜかこの異様な空間が大好きだ。毎回、作品が変わるのも楽しみ。今回は向井潤吉の戦争画の過激さにびっくり。短い記者時代に、彼の「アトリエ館」で東北の民家を回って描いた素朴な絵の数々について記事を書いたことを思いだす。
2階のミニ企画展では「フェミニズムと映像表現」がおもしろかったが、これについては後日(たぶん)。
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