『ルート29』に目が点になる
森井勇佑監督の『ルート29』を劇場で見た。この監督の第1作『こちらあみ子』は見ていないが、日本に遊びに来ていたフランス人が『ルート29』がおもしろかったと言ったので見に行った。冒頭の修学旅行中の中学生が隠れて煙草を吸うシーンから目が点になった。
最初は誰を撮ろうとしているのさえわからない。ようやく中学生が隠れている場所に立っていた地味な女性が、どうも小学生を探しているらしいことがわかってくる。よくみるとこの女性・のり子を演じているのは綾瀬はるかで、彼女は鳥取の精神病院で清掃員の仕事をしていた。
どう見てもやる気のなさそうなのり子に、訳ありげな患者(市川実日子)が近づいてきて写真を見せ「姫路にいる私の娘を連れて来て欲しい」と頼む。するとのり子は仕事をそのまま放り出して姫路に向かう。ようやくその娘を見つけるが、これが学校が嫌で森の中の秘密基地にいるような変人だ。最初は男の子かと思った。
娘はのり子をなぜか「とんぼ」と呼び、2人は国道29号線(ルート29)を通る珍道中を始める。世の中から相手にされない変人2人のロード・ムーヴィーだが、出会うのはひっくり返った車の中にいた「じいじ」や世の中を避けて森の中で暮らす親子(父親は高良健吾)など、ほとんど夢の中のような人物ばかり。国道を大きな魚が通ったりもするのだから。
一番いいのはのり子が訪ねる姉(河井青葉)で、妹と同じく完全にずれている感じだが、ちゃんと仕事をしており、妹のことを思いやる。これが妙に泣けてくる。そしてようやくのり子は娘を母親のもとへ届けようとするが、そう簡単にはいかない。
のどかな夏の田舎で、世の中の基準からちょっとずれた人々がひっそりと暮らす。そこにはファンタジーも起きて、実は楽しい世界のようだ。カメラはそんな夏の日々を静かに優しく追いかけてゆく。
よくこんなヘンな映画の企画が通ったものだと思うが、「製作」には東京テアトルを始めU-NEXTなど5つの会社が関わっているから、驚く。考えてみたらこの秋に見た傑作『ナミビアの娘』や『SUPER HAPPY FOREVER』や『HAPPYEND』も、あらすじだけ聞いたら昔なら自主制作しかないような映画に複数の会社が参加している。
最近の日本映画は変わってきた。本当に志の高い監督やプロデューサーがどんどん出てきているのではないか。
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