『ヴァラエティ』の見せる80年代ニューヨーク
私は毎週金曜日の夕刊各紙を買う。映画評や広告が載っているからだが、先週末にある写真にドキッとした。アメリカ映画『ヴァラエティ』のもので、どこかで見覚えがあった。読んでみると、1983年のベット・ゴードン監督の作品という。
この写真は映画館のチケット売りボックスで若い女性が退屈そうに客を待っているもので、1984年夏から1年間パリにいた時によく見たポスターに使われていた。たぶんジム・ジャームッシュなどと共に出てきたアメリカのインディペンデント監督として紹介されたのではないか。
私は当時この映画を見た気がするが、自信がない。見たとしたらあまり印象に残らなかっただろう。いずれにせよ今回見て、孤独な女性が眺める80年代ニューヨークの荒涼とした風景がなかなかいい感じだった。
冒頭、主人公のクリスティーンは新聞の求人欄で「広報担当募集」を見て会いに行ったら「裏で胸を見せてくれ」と言われた話を、プールの更衣室で女友達に語る。断って帰ろうとすると「どうせ小さいくせに」と言われたという。彼女は仕事がなく、恋人らしきマークは自分の仕事と食べることに熱心で彼女をかまわない。母からは留守番電話が残っている。
ようやく見つかったのは「ヴァラエティ」というポルノ映画館のチケット売り。彼女はそこで客引き兼モギリのホセと組んで働く。客の中には彼女にコーラをご馳走してくれた紳士風のルイがいた。ある日彼は野球観戦に誘い、2人でワインを飲んでいると別の男がやってきてルイは「仕事ができた」と去ってゆく。
クリスティーンはこっそりルイの後をつける。港の事務所に行ったり、魚市場に行ったりして時々お金を受け取るルイをクリスティーンは見ている。別の日にはポルノショップに入るのを見つけて自分も行くが見当たらない。何度も彼を追いかけるが、だんだんそれは妄想のようにも見えてくる。ある日、とうとう電話をかけて会うことにした。
都会で生きる孤独の女性のストーカーのような日々を、淡々と描く。彼女の目に写るニューヨークは砂漠だ。あるバーで女たちが集っているが、そこの経営者は「ナン」と呼ばれていて、よく見たら写真家のナン・ゴールディンが演じていた。彼女はクリスティーンによく電話をして優しいメッセージを残す。
調べてみたら、音楽はジョン・ル―リ―で撮影はジャームッシュを手がけたトム・ディチロ。脚本は作家のキャシー・アッカー。あの粒子の荒い赤っぽい画面は、当時の前衛的なメンバーが結集して作ったものだった。私が88年に最初の海外出張で行ったニューヨークには、確かにあの感じがあった。
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