『動物界』に考える
フランス映画はSFやホラーが苦手である。恋愛や子供の世界や社会問題は得意だが、「リアル」を離れた表現はうまくいかない。従来はアクションもヘタだったが、最近はリュック・ベッソンなどの活躍でそうとも言えない。
トマ・カイエ監督の『動物界』の予告編を見た時、正直、見るかどうか迷った。しかしフランスで200万人が見て、セザール賞5部門受賞だし、各紙夕刊にも好意的な評が並んだので劇場に出かけた。
人間が動物に変異する病気が流行し、主人公の料理人フランソワの妻も入院中。新しい施設が南仏にできると聞いて、息子のエミールと共に移住を決意し、レストランで働き始める。ところが移送中に妻を含む「病人」たちは脱出し、エミールにも動物の症状が現れる。
最初は渋滞で現れる鳥人間やスーパーで出てくるタコ人間などどうもピンと来ない。そのうえエミールの爪がおかしくなって剥そうとしたり、動物に噛まれて何針も縫ったりと見ていて痛々しい。エミールが仲良くなる鳥になる途上の男もどこか滑稽だ。
それでも背骨が浮き出て食べ物を手で食べるなど動物化していくエミールの描写はなかなかだし、そのことを知りながら好きになる女の子との関係も悪くない。あるいは最初はぎくしゃくしていた父親と息子が、息子の動物化をきっかけに少しづつ近づいて最後は仲良くなる感じが楽しい。
さらにエコロジーというか、銃を持って「病人」たちを狩る人々に対して深い森の中で生きる「病人」や獣たちの生き方を肯定する姿勢も気持ちよく、最後まで退屈せずに見ることができた。やはりフランス映画は、SFを作っても人間力と自然讃歌でもたせるのだと実感。
さらに最近のコロナ禍や移民問題なども感じさせて社会問題としての提起も十分だったから、セザール賞も納得か。アメリカ映画をたくさん見ている観客には、ホラーもアクションも物足りないかもしれない。
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