『山逢いのホテルで』のバリバール
時々、フランス映画が見たくなる。というか、フランス語を聞いてフランス人特有の表現や仕草や行動を眺めるのは、何となく自堕落な愉しみだ。そんな気分にピッタリの映画を見つけて劇場に行ったのが、ジャンヌ・バリバール主演の『山逢いのホテルで』。
原題がLaissez-moi=「私をほっといて」で、自分流を貫きたいフランス人がよく使う言葉。「私にかまわないで」という訳のほうがいいかもしれない。いかにもジャンヌ・バリバールの自由奔放なイメージとぴったり。
彼女が演じるクロディーヌは、スイスの小さな町で自宅で仕立て屋を営みながら障害のある息子を育てている。そして時おり電車で近くのホテルに行っては、良さそうな中年男を誘惑して男の部屋に行く。すべては自分の意志によって動いており、彼女の中では万事快調だ。
男を選んでその部屋に行くまでがおかしい。ホテルのボーイを使って、どこから来たのか、いつ出発かを聞き、近くから来た客やこれから長く滞在する客は避けて、後腐れのないその場限りの客を選ぶ。ゆっくりお酒を飲んだりせずに仕草や言葉で相手を誘惑し、「あなたの部屋に行きましょう」と単刀直入。
時には満足できない相手がいても必ず「メルシー」と言って、、さっさと部屋を出る。自宅には息子が待っているから、電車に乗って逃げるように帰る。さまざまな場所から来た男たちから聞いた話をもとに、息子の父親が各地から書いた手紙を創作し、読み聞かせる。
こうしてすべてがうまくいっているはずだったが、ある時ミュンヘンから来た男を本当に好きになってしまう。それからは泊まってしまったり、何とか男に会おうとしたり、歯車が狂い始める。そして男がブエノス・アイレスに転勤するのに同行する決心をする。
最初の1時間は繰り返しが軽快に進む。仕立て屋の仕事も地元の人々に愛されていい感じで、何より電車やバスに乗るテンポがいい。ホテルは現代的な建築でかなり大きくいわゆるムードはないが、こういう短い逢いびきにはかえって向いているかも。
そうして終盤の30分で慟哭のドラマが生じる。その急な展開とバリバールの演技に息を呑んだ。最初から最後まで彼女が出ずっぱりで、彼女の自立した生き方を追い続ける女性映画だった。てっきり女性監督かと思ったが、マクシム・ラッパズという1986年生まれの男性で、最初の長編というから、今後が楽しみ。
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