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2024年12月 4日 (水)

『オークション』を楽しむ

1月10日公開のパスカル・ボニゼール監督『オークション 盗まれたエゴン・シーレ』を試写で見た。これはいろいな意味で楽しんだ。まずは何といってもオークションの世界は、短い美術記者時代に取材したことがあってあのハンマーを叩くバブリーな感じが懐かしかった。

それから出てきたパリのオークション会場である「オテル・ドゥルオー」が出てきたのも嬉しかった。ここは1990年代にポンピドゥー・センターの学芸員に連れられて何度か行ったが、この映画で若い女性がコートを買うように、誰でも入ることができオークション前の下見ができる。

アート以上に食器とか靴とか時計とかオートバイとか何でもあって、見ているだけで楽しい。だいたいお金持ちが死んで遺族が持物を処分するのに使う感じがした。サザビーズなどが高級品しか扱わないのに比べて庶民的な雰囲気。

それから監督のパスカル・ボニゼールは、昔は評論家兼脚本家で若い頃は彼の映画と絵画をめぐる本などをフランス語で一所懸命読んだ記憶がある。いつの間にか監督になっていたが、どれも見ても「はずれ」がない。今回も彼が「監督・脚本・翻案・台詞」。さらに原題はLe tableau vole=「盗まれた絵」。これはラウル・ルイス監督の謎の白黒中編L'hypothese du tableau voleを思わせて、ぜひ早く見たくなった。 

結果から言うと実におもしろかったが、ラウル・ルイスの魔訶不可思議な世界とはほぼ関係なかった。久しぶりにゾクゾクする無駄のないサスペンス・ドラマを見た感じというか。

アンドレ・マッソンはパリのオークション会社「スコッティーズ」で働く。その下には研修生のオロールがいるが、彼女は少しヘンでどうも虚言癖があるようだし、スノッブなアンドレをどこかバカにしている。おもしろいのはこの2人が終盤に協力して「勝負」に勝ってしまうこと。

「勝負」は、北フランスの工業都市ミュルーズの貧しい家から1枚のエゴン・シーレが出てきたという知らせから始まる。アンドレは元妻のベルティナを呼んで調べに行くが、何と本物だった。その家は戦時中にナチスの秘密警察にいた男のもので、その絵はシーレのパトロンだった男から取り上げられて家主がナチスからもらったものだった。

それから、アンドレとべルティーナとオロールに加えて、その家に住む青年とその友人や母、彼が頼る女性弁護士、パトロンの子孫、コレクターなどが絡みあって、権謀術数が始まる。それぞれの過去も浮かび上がる。どんどん場面が変わるその切れ味が抜群で多くの登場人物が丁寧に描き分けられており、最後のハッピーエンドには「お見事」と言いたくなった。これは年明けの逸品だ。

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