「須田悦弘」展の小さな挑戦
須田悦弘という名前を覚えたのは、10年以上前に四国の直島で安藤忠雄建築の「ベネッセハウス」に泊まった時だと思う。そこには小さなギャラリーがあって、コンクリート打ちっ放しの空間の片隅に小さな花が咲いていると思ったら、この作家の作品だった。
本当に小さな花で、ギャラリーツアーで教えてもらえなかったら、とても気がつかなかった。これが無機質なコンクリートの壁と妙に合っていたが、いったいどんな素材で作られたのかは考えもしなかった。
今回の展覧会でわかったのは、それが朴(とち)の木で作られていること。もともと学生時代に《するめ》や《チューリップ》を木で作って着色していたがそれらも出品されている。多摩美大のグラフィックデザイン専攻を出て「日本デザインセンター」に就職しているが、その時のウィスキーのラベルなどのための草木や花のイラストも展示してある。
さらに細長い白い空間を作って、その奥に草木が展示されている。こうなるともはやインスタレーションとして、ある種の異世界を体験できる。それでもいいのは、足元や壁に突然現れる草花だ。展示は地下1階と2階だが、それをつなぐ階段にもある。あるいはふだん誰も行かないような1階の奥の空間にも、壁に花が咲いている。
あるいは自分が作った立体の花を、その後自らデッサンにした作品まである。こうなると、見ている方がだんだん不思議な感覚に誘われる。植物とは何か、本物とは何かという感じだ。
さらに2階の最後には「補作」と称して、古美術の欠落部分にあらたに作家が作り足した作品も並ぶ。例えば鎌倉時代の鹿の木彫に、角や榊を作って足しているが、一見するとどこを足したのかわからない。
この美術館は、建築家の白井晟一が晩年に作ったまん中に噴水がある奇妙な空間だ。まるで個人の邸宅のようだが、多くの壁が丸くゆがんでいるので、普通の絵の展示には苦労する。その空間がこのトリックのようなアート作品があちこちにあると、ピタッと決まるから不思議だ。
実は渋谷のユーロスペースで学生企画の映画祭「声をあげる」を明日までやっているので空いた時間に訪れたが、映画とは全く違う脳の部分が刺激されてよかった。
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