「ルイーズ・ブルジョア展」の迫力
森美術館で9月からやっていた「ルイーズ・ブルジョア展」がこの19日に終わるので慌てて行ってきた。地下鉄でポスターを見て、「地獄から帰ってきたところ。言っとくけど、すばらしかったわ」という副題というか、作家の言葉が気になった。
このフランス人でアメリカに住んだ女性作家は、1980年代から名前を聞き始めて90年代のフェミニズム運動の中でスターになったというイメージが私にはあった。1993年のベネチア・ビエンナーレのアメリカ館の展示も見ているし、1997年の横浜美術館の展示も見に行った。六本木に森ビルができて巨大な蜘蛛の彫刻が野外展示されたのは2003年。
だから私は、同じ頃にフェミニズムを押し出した作品で有名になった草間彌生と同世代かと漠然と思っていた。今回の個展は抜群にすばらしかったけれど、実は一番驚いたのはルイーズ・ブルジョアが1911生まれということだった。
私の場合は何でも映画と比べるが、黒澤明が1910年、木下恵介が1912年生まれである。つまり戦前にデビューして巨匠になった監督たちと同世代だった。だからこの展覧会には1930年代の作品から展示されている。特に40年代の女性が不安の中で生きてゆく姿を見せるような、ある種の抽象性を含んだ女性の姿が実に力強い。
それから50年頃から10年ほどは作品がない。パネルによると精神科の治療を受け、自らも精神分析を研究していたようだ。60年代半ばから少しづつ立体作品が出てくる。キルトや工芸のようだが、どこかに悲しみや怒りが潜んでいて、いつまでも見たくなる。
蜘蛛のような派手な立体作品が出てくるのは1980年代からではないか。これからは全開で、これまでに溜まった家族の物語や社会への怒りを大きな彫刻で発表する。まるで火山が爆発したかのような多作ぶりだが、そのどれもが作家の奥底から発したもののようで、見応えがある。
展覧会のパネルには書かれていないが、この作家が脚光を浴びたのは1980年代以降で、それまではあまり知られていなかったのではないか。そして有名になっても自分を失うことはなく、その注目度を逆に利用して内的世界の造形化に積極的に取り組んだのではないかと思った。
ちなみに同質のものを感じる草間彌生は1928年生まれで17歳上。近いのはメキシコのフリーダ・カーロ(1907年生まれ)か。そういえば、1950年生まれのジェニフー・ホルツァーの電光掲示板に言葉が流れる作品との共作が2カ所にあって、これは英語と日本語があったこともあって、なかなかの効果を生み出していた。
これは最近見た展覧会で一番よかった。実はその前に東京都写真美術館で19日までの「アレックス・ソス」展と「日本の新進作家 vol.21 現在地のまなざし」を見てそれなりによかったが、完全に吹っ飛んでしまった。
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