年末年始の映画:その(5)『Underground アンダーグラウンド』
もう1月も半ばを過ぎたので、「年末年始」は終わりにするが、最後に「映画ではない映画」をもう1本取り上げたい。今年最初に見た試写は、3月1日(土)公開の小田香監督『Undergroundアンダーグラウンド』だった。これはいったい何だろうか。
ドキュメンタリーのようだが、あまりに美学的に洗練されている。そのうえ、何も話さない若い女が何度も出てくる。彼女はただそこにいるだけ。かと思うと、沖縄で戦争末期のガマについて念仏のように語る老人がいる。そして女は老人のそばにも立つ。
沖縄の老人は松永光雄さんで、彼は1昨年山形国際ドキュメンタリー映画祭で見た中編『GAMA』の中心人物だった。これは普通にドキュメンタリー映画だったが、今回は違う。闇の中にいくつもの光がきらめき、轟音が鳴り響く。
何の音か。地下鉄か電車の音も、飛行機の音もある。たぶんいろいろな音を組み合わせているが、何となくありそうな音にも思える。沖縄のガマだけでなく、まさに地下鉄が走る場面もあるが誰も乗っていない。あるいは地下か地上かわからない洞窟のような場所を女は歩く。
その女の歩みは、まるで人間が存在する以前の世界へと向かっているかのようだ。松永さんが第二次世界大戦中の人骨を拾う場面がある。彼はそれが人間のものか動物のものか、一瞬で見分ける。そんな様子を静かに見る女は、まさに歴史の生々しい現場にいる。
とにかく見ていて目まいがした。『鉱 ARAGANE』や『セノーテ』も同じく地下だが、この2本は一つの世界を描いていてある種のピュアな探求がある。ところが今回はもっと雑多でかつ視点も定まっていない。ゆらゆらと揺れて何とも落ち着かない気分なのに、シーンごとの刺激はずっと強い。
見終わって資料を見たら、何度も出てくる女性は吉開奈央さんで映像作家としても知られるダンサーだった。あの不動の存在感はダンサーのものかも。それから16㎜で撮影されたとも書かれていた。あの荒いきらめきは確かにフィルムの感触だったが、妙に未来的にも見えた。とにかく、公開時にもう一度見たら、もっとわかる気がする。
ヘンな映画ばかり見た年末年始だったが、『王国』や『アンダーグラウンド』のような映画が撮られ、映画館で見られる日本も悪くないと思った。
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