年末年始の映画:その(4)『キノ・ライカ』
相変わらず「映画ではない映画」ばかり見ている。これまた年明け早々に見たのが、ヴェリコ・ヴィダグ監督の『キノ・ライカ 小さな町の映画館』。映画館を作るドキュメンタリーで、これもまた「映画をめぐる映画」の一本。
フィンランドのヘルシンキ郊外にあるカルッキラという人口9000人の町に、映画監督のアキ・カウリスマキが映画館を作る話である。そこにはかつて栄えた工場の跡地があって、その一角に映画館ができる。カウリスマキ本人も椅子を取り付けたり、スクリーンを張ったり。
その工場の跡地をどのように入手したのか、誰が設計したのか、建設費にいくらかかったのか、そんなことは一切教えてくれない。楽しそうにハンマーを手にしたり、近くのバーで酒を飲んだり。いつの間にか映画館ができている。
この間のびした感じはカウリスマキの映画にも似ていて、出てくる人々もみんな呑気で彼の映画の登場人物のようだ。みんなが自分の好きな映画を語っている。なんとなく映画館はできてしまうが、初日も一切ドラマチックな場面がなく、いつの間にか終わってしまう。
冒頭と終わりにフランス語のナレーションや歌が出てきたのは何だったのか。製作の中心がフランスのようなので必要だったのか。ニューヨークのジム・ジャームッシュが出てきたのは何なのか。多くが謎のままだが、なんとなく気持ちのいい感じで映画は終わる。みんなが映画好きで優しくて、そんな人だけが集まっていい時間が流れていた。
心に残るのが、篠原敏武氏が出てきて「雪の降る町を」を歌ったこと。カウリスマキの『ラ・ヴィ・ド・ボエム』で彼はこの歌を歌っているが、カルッキアに住んでいるというのでびっくり。おだやかな本人の様子が「カウリスマキ組」にぴったりだった。
私はフィンランドはヘルシンキに2日旅行しただけだが、あの静かな優しい感じだけは街全体から感じた。とにかく大学にも美術館にもレストランにも人が少なくて、パリから行くと拍子抜けした。篠原氏はフィンランドの女性と結婚して住むことになったようだが、私もフィンランド女性と結婚して住み始めた若い日本人に会ったのを思いだした。
映画館を作る、というのは一つの夢だ。いざやるとなると配信全盛の時代にとてつもなく大変だとは十分にわかっているが、やはり憧れる。小さなカフェと本屋のある映画館で好きな映画を見せるというのは一度やってみたいが、今の東京だと「全財産を投げうって」ということになるだろうな。
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