小田香の映画にハマる
今朝ここにアップしたものがこのブログを運営する「ココログ」の不手際で消えてしまったので、別の文章を書く。もしそれが出てきたら、その時点でアップしたい。さて小田香特集である。恵比寿映像祭で『母との記録「働く手」』を見て衝撃を受けたので、特集にも出かけた。
まず見たのは有名な『鉱ARAGANE』(2015)。実は見ていなかった。始まると轟音と共に闇の中で光がきらめき、どなる声がする。鉱山の話とは聞いていたが、しばらく何が何やらわからない。ヘッドランプの男たちがいて、ツルハシを持って打ち付ける。重機はすごい音を出して動いている。大きな歯車が回る。
レールの上を何人も乗った台車が走る。ヘッドランプ以外は真っ黒だ。サイレンが鳴って車が止まると降りた男たちはいっせいにツルハシを持つ。赤い光、黄色い光。ペンを持って記録する女がいる。作業が中断すると、片隅で何かを食べる者がいる。男は言う「どんなに稼いでも死んだら意味ないから」。
終盤になってようやく洞窟から抜け出して、雪の降る光景を見ると安心する。まるで刑務所のような事務所。シャワーを浴びる男たち。そこに小鳥が何匹も来るとほっとしまう。過酷そのものの労働をドラマ化せずにそのまま見せながら、その光と音の爆発をいつの間にか美しく見せる手腕に驚く。あとでチラシを見てこれがボスニアの鉱山だと知ったが、映画ではその説明もゼロだった。
次は「短編集」にも出かけた。『ひらいてつぼんで』(2013)は火を使う祭を見せるもので、一番フィクション性があった。後半には糸取りをする小学生たちが出てくる。彼らの言葉がどこか童話のように作り込まれた感じがした。
『呼応』(2014)は山村を固定カメラで見せる。羊たちが動き、次第に人影が見えてくる。その数はだんだん多くなり、それから車がいくつか動き出す。そしていつの間にかお祭りのようなシーンが写る。最も自然な感じの映画か。
『FLASH』(2015)は車窓にカメラを据えて泥だらけの窓から見える光景が移り変わる。窓に反射したカメラや廊下にいる男たちが写ることもある。一瞬だけ英語で話す監督と女友だちが写る。列車の音に交じって、日本の子供たちの騒ぐ声が聞こえたり、「私の最初の記憶」などと文字が出たり。車窓の夢幻的光景に列車の音や日本の子供の声、さらに文字が交錯する。
『色彩論 序章』(2017)はたぶん一番純度が高い。白黒でブラインドから漏れる光を見せる。ブラインドの前の女の姿、てのひらの光、水のきらめき、光と影が無限に織りなし、工場の音、水の音、子供の声などが混じる。これはすごい。
『風の教会』(2018)は六甲の安藤忠雄建築の『風の教会』の修復工事を撮ったもの。これは安藤氏の展覧会で野外に再現したものを見たが、これほど美しくはない。光と影と音と声を操る小田マジックですごい建築に見えた。『Night Cruze』(2018)は大阪の湾岸を船でめぐるだけだが、これだってずいぶん美しい。
『カラオケ喫茶ボサ』(2022)は『母との記録「働く手」』につながる作品で、監督の母親が開くカラオケ喫茶を見せる。楽しそうに歌う人々の映像に彼らの声が聞こえる。「平和な世界がいい。ウクライナで起こっていることはどうにかならないのか」などと口々に平和を訴える。白い服に花火が写る。線香花火のきらめきがたまらない。
今週末公開の新作『Undergroundアンダーグラウンド』は既に見ているが、あの映像のきらめきはこの監督の天性のものだとわかった。
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コメント
知らなかったのですが、予告編を見てゾクゾクきました。見たいと思います。
投稿: 辻田 | 2025年3月 2日 (日) 09時39分