ときどき、ワイズマン
「フレデリック・ワイズマンのすべて」と題して、彼のドキュメンタリーで現在上映可能な44本すべてが昨年12月からこの3月末まで上映中だ。私は特に初期はあまり見ていなかったので、空いた時間を見つけてときどき出かける。
2週間に1本とか見るリズムがいい。ワイズマンの映画はすべて同じという人もいるが、それが映画、映像のキホンを見せている感じでいつもうなずいてしまう。それは何かと言えば、普通の人間の複雑さを撮る、ということかもしれない。
最近見に行ったのは2作目の『高校』(1968)。例によって字幕の説明もナレーションもないので、最初は何を写しているのかもわからない。アメリカの地方都市の大通りから、高校の廊下が写る。そしてさまざまな授業。
一番驚いたのは、60年代後半のアメリカでまだ男女別の授業があったこと。説明がないので何の授業かわからないが、女子が舞台を歩いている。それを見ているのは女子のみで、眼鏡をかけたかなり年輩の女性の先生が評価する。「スカートはあっているが、歩き方が悪い」「姿勢が悪い」「もっと痩せろ」。そして自分で舞台をエレガントに歩いて見せる。「ほら、こんなに綺麗に歩くことができるでしょ」
男子向けの授業では、産婦人科医の怪しい男子講師が「結婚前に性交の経験が多い男女は離婚する可能性が高い」と力説する。全く根拠は示さないが、とにかく簡単に女性と関係を持つと、結局は不幸な人生になると説明する。そして指で卑猥な仕草。まじめに聞いている男子もいれば、笑っている者も寝ている者もいる。
一方で女子にはピルの使い方を説明しているから、この部分は今の日本より進んでいるか。いずれにせよ、生徒の反論は認めない。会話の様子からそれがフィラデルフィアの郊外にある、それなりのレベルの高い高校だとわかってくる。何とサイモンとガーファンクルの詩を読んで解説し、次にレコードで歌を聴き、「これからみんなで議論します」という授業もあった。
騒いだと問答無用で叱られる男子。実は自分ではないのだが、これは教師の怒りは収まらないとわかって教室を出てゆく。NASAの体験報告。最後はベトナムに従軍中の卒業生からの手紙を涙ぐんで読む女教師。だいたいおもしろくなりそうだと次に行く。それぞれは3分から5分か。
前年に作られた第一作の『チチカット・フォリーズ』は精神異常犯罪者の矯正所を描いて上映中止になったが、こちらは普通に上映されたようだ。今見ると、時代の記録として何とも興味深い。そしてやばい。たぶん教師の横暴は、世界中、どこでも同じか。自戒を込めて思った。ワイズマンはときどき見ると、いろんな意味で役に立つ。
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