『ジュテーム、ジュテーム』の記憶
アラン・レネの『ジュテーム、ジュテーム』(1968)を劇場で見た。これは昔、フランス留学中に見たはずだが、寝てしまった記憶しかない。日本の映画館で上映するのはたぶん初めてなので、見に行ってみた。
これが何ともおもしろい。レネの初期作品で有名な『二十四時間の情事』(1959)や『ミュリエル』(1963)のような深刻さがなく、どこかSFのようなありえないおかしさがある。深刻さを演じているような、未来を馬鹿にしているような。
まず怪しげな男が病院にある患者を訪ねる。クロードは最初は意識不明だった。数日後に意識を取り戻したクロードは誰とも会おうとしない。男は医者と話し、クロードの退院の時期を聞き、同僚と病院で待ち構える。聞いたことのない研究所の実験に1日参加して欲しいという提案をクロードは了承し、謎めいた大きな研究所に行く。
そこではある種のタイムマシンを研究しており、十人を超す研究員たちは仲間内では北欧の言葉(たぶん)を話している。彼らは鼠を使って1年前に1分間だけ行って帰ってくる実験に成功し、今度は人間で試すつもりだった。そこで自殺に失敗をしたクロードが選ばれた次第。
彼は土色の布団でできたテントのような中に入り、目を閉じた。すると見事に過去が蘇った。英国グラスゴーの海岸で海に潜る。海辺にはカトリーヌが待っていた。いったんテントに戻るが、また過去に行く。そこはオフィスだったり、自宅で妻がいたり、バーで彼を誘惑する女性がいたり。
そしてまたグラスゴーでカトリーヌと一緒に過ごす。パリのシーンでは自分がカトリーヌを殺したことを口走るが、どうやら妄想のようだ。そして目覚めたテント、グラスゴーの日々、パリの仕事や付き合いが交互に現れるが、グラスゴーの楽しいバカンスの日々とパリの日常が入り混じり、記憶が錯乱する。さらに戦前の記憶も混じってくる。
研究所ではクロードが現在に戻ってこないことに、みんな焦り始める。テントで起きたクロードは、すぐにまた混乱の過去に戻る。ちょうど明け方に見る夢の世界がこんな感じか。そしてある時、実験は失敗したと研究員たちは出てゆく。クロードはそのまま帰ってこない。
記憶が断片化し、すべては不確かで、女を求める心だけが存在する。なんだか私には他人事には思えなかった。繰り返す日常に記憶や夢が混じり、現在か過去かわからなくなる。生きているか死んでいるかも。この映画を見たら、最近の自分もそんな時間の旅を続けているような気がしてきた。
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