中条省平さんの最終講義
先日、学習院大学に中条省平さんの最終講義を聴きに行った。いわゆる最終講義にはほとんど行ったことがなく、数年前の早大の武田潔さん以来か。考えてみたら、お二人とも1984年夏から1年間の私のパリ留学中に知り合った。
期せずして二人とも私と同じくパリ南部にある国際学生都市のアメリカ館に住んでいた。武田さんは博士論文を書く3年目で中条さんは私と同じくその夏にやってきた。もちろん彼も博士論文を書くためで、大学4年生で物見遊山にやってきた私とは違う。
驚いたのは中条さんの最終講義にその頃のメンバーがいたこと。パリ在住の栗原一栄さんはたまたま日本にいたから来たということだが、彼女も同じ年にアメリカ館に住み始めたはず。後ろから声をかけられた時は懐かしい顔ながら、一瞬誰かわからなかった。
さらにその年にパリに着いて、アメリカ館からほど近い日本館に住んでいた吉村和明さんもいた。彼は長年上智で教えていた。それから私と入れ違いにパリにやって来た野崎歓さんも。驚いたのは四方田犬彦さんがいたこと。彼と中条さんが親交があるのは聞いていたが。
さらに私の教え子もいた。私の指導で卒論を書き、学習院で中条さんのもとで修士を得たK君とその友人、あるいは全く別のコースだが中条さんのファンだからと来た卒業生もいた。全体では200人を超していたらしい。
さて講義の題名は「自己形成の十字路――<破壊的性格>の時代を生きて」。「破壊的性格」とはヴァルター・ベンヤミンの文章から来ているが、それは彼が中学2年生で1968年の世界的な文化革命に接して破壊的になったことを意味する。ビートルズやコルトレーン、ゴダール、山下洋輔、唐十郎、つげ義春、松本俊夫といった天才たちとの早熟な出会いである。
つまり今回の講義ではほとんどフランス文学に触れず、自分が麻布中学、高校で過ごした10代の出来事に終始した。前衛的な音楽、映画、漫画、演劇に触れ、当時トップの弾圧がひどかった麻布高校で学園闘争をした。みんな授業に出ていないので卒業できないと思い、教員室に侵入して出席簿を持ち出して燃やしてしまったというからすごい。
一方で中学2年生で松本俊夫と出会い、彼の勧めで『季刊フィルム』に書き始める。高校生で銀座の試写会通いを始めたら映画がつまらなくなり、浪人して東京外大英米科に入るが、中退してしまう。そしてフランス文学が救いとなって学習院大学の仏文科に入り直す。
この一連の出会いと彷徨の日々を、彼一流のユーモアを随所に交えて語った。後半はパリ時代から何度か聞いたことがあったが、それでも1時間半超、たっぷり楽しんだうえ、いろいろためになった。
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