『季節はこのまま』に流れる時間
5月9日公開のオリヴィエ・アサイヤス監督『季節はこのまま』をオンラインの試写で見た。いわゆる「コロナ禍」の外出禁止令の時期を描いた映画という意味では、1週間前に公開されたロウ・イエの『未完成の映画』と同じだが、雰囲気は全く違う。
『未完成の映画』の舞台は武漢で、撮影のために泊まっていたホテルに突然監禁された映画撮影チームの日々を見せた。警察やホテルの社員との激しい衝突もあって、まさに命がけの場面も出てきた。
ところが『季節はこのまま』は、フランスの森の中にある田舎の実家でバカンスのような数カ月を過ごす中年の兄弟の話だ。フランスでは2020年3月半ばに外出禁止令が出て、食料品や薬などの必需品を除く店舗もレストランも学校もすべて閉鎖された。
その直前に郊外や地方に別荘や実家を持つパリジャンたち(多くは金持ち)は、家族で必要なものを車に積み込んで感染者の多いパリから逃げた。私の友人も、兄弟やその子供たちが実家に集まったと言っていた。パリに残るのは、行く場所のない貧乏人ばかりだった。
この映画のポールは映画監督で、音楽ジャーナリストの弟、エティエンヌと共に少年時代を過ごした広い実家で過ごしている。映画はその家をめぐる思い出を語るナレーションから始まる。途中でわかるが、どうも舞台は監督のオリヴィエ・アサイヤスの実家らしく、語られる内容も実話のようだ。
兄弟共に離婚して、実家には最近つきあっている女性とやってきた。4人で住んで食事も共にするが、久しぶりに同居する兄弟の関係はぎくしゃく。兄は感染を極端に怖がって、買物から帰ったら服を洗濯し、バッグは数時間外に置いてから家に入れる。弟はそれを馬鹿にして、料理作りに凝り出す。
ポールは教養たっぷりで、画家のデイヴィッド・ホックニーの話をしてボナールの画集を見る。そして監督のジャン・ルノワールが画家の父の最期について語る音声を聞く。あるいはサシャ・ギトリの映画を見る。弟は兄の見る映画の音がうるさいと不機嫌になる。
すべてはオンラインだ。映画のスタッフとの打ち合わせも、精神科医との定期的な面会も、別れた妻と暮らす娘との会話も。そして恋人のキャロルと森の中を歩き、テニスをする。何の不自由もない暮らしだが、どこか暗い。
私はコロナで大学の授業がなかった頃、ずっと自宅にいた。時々買物と散歩をするだけだった。しばらくしてオンラインの授業が始まったが、たまに大学に行く以外は、ほとんど家にいた。その時の何とも言えない閉鎖感がこの映画を見て蘇ってきた。
俳優を使った劇映画だが、たぶん多くは監督の身に起こったことだろう。つぶやきのような監督自身によるモノローグとポールを演じるヴァンサン・マケーニュらの即興のような何とも自然なしぐさや表情は、この映画にほとんどドキュメンタリーのような肌触りを与えている。
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