『テクノ封建制』の描く現代
中条省平さんの最終講義に行った時、最初のあたりで中条さんが触れた本がヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』。なぜこの本について話したのか思いだせないが、たぶん1960年代後半について話す導入として現代の資本主義がどのように変わったかを言いたかったのかも。
著者は2015年のギリシャ経済危機の際に財務大臣に就任して債務帳消しを主張して話題になったアテネ大学教授という。オビには佐藤優と大澤真幸の推薦文で、本文最後には斎藤幸平の解説文付きという強力な布陣。
「テクノ封建制」という題名は、2008年の経済危機以降、GAFAMが世界を支配して搾取しているという考えに基づく。それはかつて封建時代に領主が土地を貸して小作人を働かせていた状況に近いというのが、この本の主張のようだ。では現代では何を貸しているのか。
それはネット上のプラットフォームである。例えば出版社がアマゾンで本を売るためにはこれまでの取次会社に卸すよりもずっと不利な条件での扱いになる。つまりは封臣事業者や封臣資本家である。商品を運ぶのにかつてはヤマトなどの大手に破格の安い金額で頼んでいたが、今はフリーに頼む。フリーは何の保証も保険もない。これは完全なクラウド農奴となる。
アマゾンが世界一の販売網を築き、ソニーもノキアもその中で販売をすることを強いられた。アップルはアップルストアによって本や家電などの物理的販売を超えてデジタル上のあらゆる商売を独占した。そして中小の事業者から30%のレントを搾り取った。
アップルは自らアイフォンを開発したが、グーグルは莫大な資産で開発したアンドロイドをソニーなどに無料で提供した。アップル以外のほとんどのスマホがアンドロイドを搭載し、さらにグーグルは検索エンジン、Gメール、ユーチューブなどを開発か買収してアップルに継ぐデジタル覇者となり、グーグルプレイでアップルに対抗するアプリの王国を作った。
これらは2008年の金融危機後、各国の中央銀行が大手銀行をつぶさないために大量の紙幣を発行したことで、クラウド資本の蓄積に向かった結果である。これがGAFAMの支配。彼らは利用者の個人情報を使いながら、効率よく買わせる戦略を取る。コロナ・ウィルスのパンデミックで資本はさらにクラウド資本に集中した。
これに世界で対抗できるのはアリババ、テンセントなどの中国の5大クラウド企業のみ。それぞれがグーグル、フェイスブック、ツイッター、アマゾン、ネットフリックス、ウーバーなどのクラウド資本をすべて合わせたような役割を持ち、通信もエンタメもオンラインの金融サービスと直結している。さらにそれは政府機関と直接結びつき、顔認証を使って国民を監視する。
著者はこの状況からの脱出方法も提示しているが、それは後日(たぶん)書く。最後に斎藤幸平の解説から一文を。「日本のような自前のプラットフォームを持たない国ではデジタルトランスフォーメーションを進めれば進めるほど、富はアメリカへ流失してゆく。……日本国民は、アメリカのデジタル帝国の荘園を耕すクラウド農奴なのである」
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