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2025年4月27日 (日)

『日ソ戦争』に驚く

買っておいた麻田雅文著の新書『日ソ戦争』をようやく読んだ。オビに加藤陽子、小泉悠の両氏絶賛だし、去年の新書大賞2位という。そもそも「日ソ戦争」というのは何か。「第二次世界大戦末期にソ連がドサクサに紛れて参戦した」くらいに思っていたが、とんでもなかった。

簡単に言えばソ連の参戦は米ソ間で何年も前から検討されていたことで、その時の二国間の取り決めが今の北方領土の基本路線になっているなどとは、これまでの日本史のどこにも書いていない。それから玉音放送後も8月末まで関東軍とソ連の戦闘が続いていたことも全く知られていない。

あるいはソ連の参戦で抑留された日本人の扱いが非人道的行為だった理由についても明確に書かれている。この本を読むと、今のロシアのウクライナに対する態度も「日ソ戦争」のスターリンの時代から地続きのような気がしてくる。その意味で今のロシアについて考えるのに大事な本ではないか。はじめに書かれているが、この戦争は日本では名前さえなかった。この筆者が「日ソ戦争」と名付けている。以下は序文から。

「「日ソ戦争」は半月足らずの戦争だったが、残した爪痕は大きい。日本にとっては敗戦を決定づける最後の一押しとなっただけではない。シベリア抑留・中国残留孤児・北方領土問題などはこの戦争を起点とする。広い意味では朝鮮戦争の分断や、満州で国共内戦が始まったのもこの戦争がきっかけだ。東アジアの戦後は、日ソ戦争抜きでは語れない」

しかし「本格的な研究が始まったのは今世紀に入ってからだ」。日本の関東軍の公文書はほとんどが破棄されたが、最近、ロシアの資料がオンラインでアクセスできるようになり、そこにはソ連が満州から持ち帰った関東軍文書まで含まれていて、さらに在米の資料にも当たった結果がこの本のようだ。

アメリカは真珠湾攻撃の前から、ソ連に軍事協力を求めていた。しかしソ連は対独戦を優先した。1945年5月9日にドイツが降伏すると、アメリカはソ連に参戦を要請する。それに対してソ連は大連や遼東半島、旅順、南樺太、千島列島などの見返りを求めた。アメリカが南樺太や千島は文句をつけなかったが、ほかは検討事項にする。

アメリカは3カ月以内の参戦を要求。一方で原爆の開発を進め、7月16日に実験が成功した。そして7月26日にはソ連を入れずに米・英・中でポツダム宣言を出す。ソ連は抗議したが、意外な効果があった。「日本政府は、ソ連は終戦を仲立ちする気をまだ捨てていないと都合よく解釈したのである」

ソ連は予定していた8月15日の参戦を7日に早めた。核攻撃で日本が降伏すると予測してその前を狙った。「もはやアメリカは、日本や東アジアの戦後処理にソ連が関与するのを望んでいない。ならばヤルタで約束された利権は自力で手に入れる他はない。アメリカへの不信を強めたスターリンが、そう思って参戦を急いでも不思議はない」

まだ第一章までしか紹介してないので、後日また書く(たぶん)。とにかくすごい本だ。

 

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