『愛よ人類と共にあれ』の241分
だいぶ前に国立映画アーカイブで見た島津保次郎監督の『愛よ人類と共にあれ』(1931年)について書いておきたい。サイレント作品で上映時間は241分=4時間強。同じ1931年から翌年にかけて公開された清水宏の『七つの海』も同じくらいの長さだから、サイレント末期の蒲田撮影所では大河ドラマの長尺ものが流行っていたのか。
映画は長いが、話は意外にシンプル。上山草人演じる実業家の山口剛吉は、2人の息子とはうまくいかないが、娘2人を幹部社員に嫁がせて王国を築いている。しかし樺太への大規模な出資は現地の従業員の反発を招き、山火事によって会社は倒産の危機に。自殺しようとしたところに次男の雄(鈴木伝明)と出くわし、彼とその妻(田中絹代)と共に新天地、アメリカで暮らす。
冒頭は岡田時彦演じる長男・修が妻と共に帰国するシーンから始まる。妻は大騒ぎしているが、修は父がいないことを見て「あの人は金儲けと女色にしか興味がない」と冷静に言い放つ。実際、剛吉は会社で社員を怒り飛ばしながら電話で株を買いまくる指示を出すかと思うと、料亭で女と遊ぶ毎日。
目下の問題は樺太で、剛吉は広大な山林を買い付ける。ところが現地では悪賢い支配人たちが、労働者と揉めている。とにかく剛吉の表情や仕草がすごい。目はらんらんと輝き、大きな身振りで全体を仕切りすべてを笑い飛ばす様子は日本離れしている。
長女(吉川満子)を専務の松山(河村黎吉)と結婚させた剛吉は、次女と常務・関谷(奈良真養)との結婚を発表する。一方、長男・修は家を出て学者の道を道を歩み、次男の雄はダンスホールで働いて不良連中と遊んでいる。ある時、雄は妹の結婚を知って恋人と東京会館の披露宴に出かける。しかしダンスホールのボーイ服の雄は入場を拒否される。剛吉は笑うのみだ。
樺太の状況を聞いて、剛吉は関谷を派遣する。ところがそこでは山火事が発生し、関谷の手に負えない。剛吉も樺太に赴くが、すべては燃えてしまっており、剛吉は財産をなくしてしまう。東京に戻るが会社は人手に渡り、松山も関谷も残った財産を盗んで逃げだす。剛吉は髭ぼうぼうで小さなアパートにいる。自殺をしようとして、同じアパートにいた雄に止められる。
ラストは突然、アメリカの田舎。まるで生き返ったように楽しそうな剛吉は雄と牧場を経営している。家では雄の妻の子供が生まれたところだ。
ハリウッド帰りの上山草人が、金と女に燃え上がる日本人離れした男を見事に演じており、2人の息子役の岡田時彦や鈴木伝明の西洋風の顔立ちと呼応する。映画としては冗長かもしれないが、その血沸き肉躍る展開は魅力たっぷり。4時間だが、ピアノ伴奏がサイレントならではの大袈裟な表現を引き立てていた。
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