新書は微妙:その(1)
いつの間にかこの5年のうちに新書を3冊書いた。10万字、13万字、15万字と少しづつ厚くなったが、どれも書くのに半年強であまり時間がかからなかった。長年新聞社に勤めて、大学に移ってからも短い文章を新聞や雑誌や映画パンフに書いていたから、いわゆる研究書や論文を書くよりも新書は私には向いているかも。
さて自分が書くとほかの新書も気になる。例えば1カ月前の拙著『ヌーヴェル・ヴァーグ』と同時に同じ版元から出た『沖縄戦』がかなり売れていてもう重版になったのを見ると、どんな本かと買ってしまう。やはり映画より歴史や社会の問題について書いた本が広がりがあるのかと、当たり前のことに気づく。
しかし簡単に書けるようで、新書には長年の調査・研究の結果を一般向けにわかりやすく書いたものもあれば、ほんのエッセー程度のものをまとめたものや紹介パンフのようなものもある。ここに書いた『日ソ戦争』や現在読んでいる『ユダヤ人の歴史』やたぶん『沖縄戦』は前者だが、最近後者に当たる本を2冊読んだ。
秋尾沙戸子『京都占領 1945年の真実』(新潮新書)は、「進駐軍から京都御所をお守りせよ!」という帯を読んでおもしろいかと思ったが、敗戦後に京都で起こった進駐軍をめぐるエピソードを紹介するのが中心で、厳密にどの資料に基づくかはあやふやなこともあり、当時を知る人の記憶に頼っていることも多い。
「GHQは平安神宮がお好き」という第3章は、平安神宮の前でマッカーサー夫妻がその前で写真を撮っていることから始まる。結局、平安神宮は無事で、その近くでは大礼記念美術館(京都市美)は米軍病院、公会堂(ロームシアター)は宿舎、勧業館は軍資材置き場に、武徳館は下士官クラブになった。
京都御所も狙われたことが書かれているが、こちらは首相の吉田茂の書簡で免れている。府立植物園は米軍家族住宅。東京なら代々木公園のワシントンハイツだ。おもしろいのはゴルフ場にされた上賀茂神社でこれも日本政府から抗議を受けたが、結局日本の業者が動いてゴルフ場に。それなりに面白いがどの章も尻切れトンボの印象。
大石尚子『イタリア食紀行 南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(中公新書)は、イタリア料理は食べるも作るのも好きなので買った。「地域の風土・歴史に根差した食材や伝統料理法が受け継がれている」(帯)としてイタリア各地をめぐり実際にインタビューをして紹介する。
イタリアのいいところ、よく見える傾向しか書いていないので、何となくイタリア政府観光局の案内を読んでいる気分で盛り上がらない。イタリアに20回以上行って、さまざまな社会問題を取り上げるイタリア映画を300本は見ている私にはどこか違和感があった。「人口減少が進む日本の地方にとって、有益なヒントが満載」(これも帯)は違う気がした。
もちろん各地の名物料理の記載は楽しいし、「トスカーナ州で食べられるうどんのような太い手打ちパスタ「ピチ」がウンブリア州では「ウンブリチェッリ」、ヴェネト州では「ビーゴリ」、エミリア=ロマーニャ州では「ストロツァプレーティ」と呼ばれる」などと読むと「そうだったのか」と思う。
要はイタリアを理想化し過ぎて「日本も学ぶべき」という観点が微妙だ。昔、「アメリカでは「フランスでは」と外国を美化することを「ではのかみ(出羽守)」と言ったが。
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