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2025年5月27日 (火)

今さら映画の入門書?:その(1)

「映画」と「入門」という2つの言葉が入った分厚い本を2冊読んだ。昨年出た高良和秀編著『映画技術入門』と一昨年出たパオロ・ケルキ・ウザイ著、石原香絵訳『無声映画入門 調査・研究、キュレーターシップ』。大学で16年も教えてきたのに今さら映画の入門書とはと思われるかもしれないが、私にはどちらもおもしろかった。

そもそも私にとって映画は独学。40年前にパリで一年間映画学科に通ったが、そもそもフランス語があやふやでとても中身を理解していたとは思えない。それから早大の修士で映画を専攻したが、1年で辞めている。それからはひたすら映画を見て本を読む生活で、だんだん映画の文章を書くようになったが基本ができているか怪しい。

理論や分析はともかく技術オンチの私には、『映画技術入門』はピッタリ。そのうえ、基本的に説明は漫画仕立てなのでとっつきやすい。「前書き」はこう始まる。「本書は映画の歴史を技術の面から解説してゆくものです」。映画史を教えている私に一番欠けていることだ。

映画のサイズは基本的に3つあることは私でも知っている。スタンダード、シネスコ、ビスタで、ビスタにはアメリカンビスタとヨーロピアンビスタがある。そしてそれぞれに専用のレンズを使って上映する。そこまでは大丈夫。

ところがスタンダードでもサイレントは1:1.33でトーキーは1:1.37と違う。シネスコは50年代前半までは1:2.55で、その後70年頃まで1:2.35で70年代以降1:2.39だとは知らなかった。それ以外に70㎜、テクニラマ、IMAXの場合はまた異なる。

さらにトーキーでも初期は1:1.19だ。この本がいいのはどの作品がどのフォーマットかを明示していること。『M』(1931)も『キングコング』(1933)も1:1.19だが、『フランケンシュタイン』(1931)は1:1.37とは。

そして1950年代に白黒スタンダードの時代はカラーのワイドに変わる。これはテレビの普及で映画の観客減が止まらないからで「白黒からカラーに、スクリーンをワイドにすることで、テレビにはない迫力をアピールして観客の呼び戻しを図りました」。1955年にカラーと白黒は半々になった。

ここには、その後あえて白黒で撮られた映画が並んでいる。『ベルリン・天使の詩』(1987)のようにビスタもあれば、『EUREKA ユリイカ』(2000)のようにシネスコも、『動くな、死ね、甦れ!』(1989)のようにスタンダードさえある。『動くな、死ね、甦れ!』はレンフィルム祭という私が最初に手がけた映画祭で初めて上映したが、スタンダードだったとは。

2010年頃からはデジタルカメラとグレーディングによって白黒作品は作られやすくなった。デジタル作品にはすべて使ったカメラも書いてあるからすごい。有名な作品なら索引の映画の題名からサイズなどがわかる。監督別にサイズやカラーの好みも述べられていて興味深いが、これは後日。

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