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2025年5月 3日 (土)

25年目のイタリア映画祭:その(1)

イタリア映画祭が25年目という。私が2001年に始めた映画祭だが、こんなに続くとは思わなかった。「私が始めた」と書いたのは誇張ではない。イタリア大使館から、2001年に「イタリア年」をやるので美術、音楽、映像などの企画を出して欲しいと言われたのが、その2年以上前だったと思う。

私は、イタリア映画史をたどる映画祭をフィルムセンターでやり、別途新作映画祭を提案した。フィルムセンターでの企画は相手がローマのチネテーカ・ナチオナーレに決まったが、新作選は時間がかかった。イタリアの映連の会長やルーチェ研究所の国際部長などいろいろ会ったが、ようやく2000年夏にチネチッタ傘下の「フィルムイタリア」という外国でイタリア映画を広める組織が受け皿に決まった。

最初の「イタリア映画祭」は、字幕を打ち込んで全国10カ所ほどに巡回した。翌年に大使館からイタリア年は2002年の春までなのでもう一度やってくれと言われて、もう1回だけやることにした。この2回で相当疲れたのでおしまいと思っていたら、上映した映画数本が配給会社に売れたこともあり、イタリア側から必要な費用を持つから継続して欲しいと頼まれた。

私も年に1度ベネチア映画祭に行ってその後チネチッタで試写をしてもらうことが楽しくなって、続けることに。私が関わったのは2007年までで、異動で記者になってしまい後輩のMさんが続けた。Mさんはそれから18年続けたから私の2倍以上だけれど、全くのゼロから始めたので今も続いているのは嬉しい。

さて、今回も数本見た。巧みな喜劇で知られるパオロ・ジェノヴェーゼ監督の『狂おしいマインド』は、40歳前後の男女の初デートを描いたもので、それぞれの心の中の声を4人ずつの男女が演じる。理性、本能などさまざまな意見が出て4人ずつは話し合う。いわば精神分析的な内容だがちょっとくどい。

最後にはうまくいくわけだが、たった一晩の出来事をなんとか97分もたせた。この作品だけはイタリア文化会館の前夜祭で見たが、イタリア人や会館でイタリア語を勉強している人が多いせいか、一つ一つの台詞がかなり受けていた。

ジャンニ・アメリオの『戦場』は今回一番期待していた1本。第一次世界大戦を末期のイタリア軍の病院を舞台に、二人の幼馴染の医者を描く。前線復帰を嫌がって自傷したり精神病のふりをしたりする兵士たちをステファノは厳しく取り締まるが、ジュリオは彼らの手助けをする。

とにかく病院の患者たちの様子がリアルで胸に迫ってくる。自らを傷つけてステファノの告発で公開銃殺される兵士さえもいる。第一次世界大戦を舞台に逆らう自国の兵士を殺してしまうのは、フランチェスコ・ロージの『総攻撃』(1970)にそっくり。

映画は後半に急にスペイン風邪が広がってジュリオはその研究に向かい、兵士を助けた罪を免れる。何となくふわりと終わってしまうが、あの病院の手や足をなくし、顔が包帯だらけの兵士たちの姿は克明に残る。力作だが、もっとドラマがわかりやすい前作の『蟻の王』と違って、劇場公開は難しいかも。

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コメント

イタリア映画祭、25年おめでとうございます。「狂おしいマインド」、精神分析的コメントがちょっとくどい、というご指摘、確かに。また、前夜祭上映ではイタリア語学習者が多くてセリフへの反応が多かったというご指摘も鋭いですね。

投稿: 辻田 | 2025年5月 6日 (火) 15時50分

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