『メイデン』の柔らかな風景
カナダのグラハム・フォイ監督の第一回長編『メイデン』を劇場で見て驚いた。1987年生まれで初長編というが、相当の才能の持ち主だ。明らかに16㎜で捉えられた荒い映像とざわめきの音が、10代の少年少女が全身で感じる世界を表現する。
冒頭にスケートボードを持つ2人の少年が現れて軽やかに疾走するのを移動撮影で見せるので、ガス・ヴァン・サントかと思った。さらに建築中の家で古いカセットデッキを見つけてテープを聞くのがいい感じ。カイルとコルトンは仲良しで、放課後をバカないたずらばかりして過ごす。これほど繊細な夕暮れや日の出を見たのは久しぶりだ。
ある日、ケイルは列車に轢かれてしまう。列車が近づいたのでコルトンは大声で注意をしたが、遅かった。コルトンは自宅では食事に喉が通らず、学校でも孤立してしまう。先生も心配するが、誰も彼の心は慰められない。
それからしばらくして同じクラスのホイットニーという少女が行方不明になる。街の人々は総出で森を探す。そんな時、コルトンは彼女が描いていたデッサン帳を森の中で見つけた。それからはホイットニーの日々が繰り広げられる。人と広く交わるのが苦手で、仲良しの女友だちともそれが原因で別れてしまう。
彼女は森の中を歩く。そこで出会ったのがカイルで、二人は意気投合して歩き出す。あれっ、カイルは死んだはずではと思いながらも、2人の散歩を心地よく見る。彼らは例のカセットデッキで同じ音楽を聴き始める。
親友を失ったコルトンの家での短い食事のシーン以外は、少年たちの家庭は一切出てこない。森と道路の合間に学校の廊下と教室が少し。すべては少年たちの心とそこに写る風景だけだ。果たしてあれは夢だったのか、異界なのか、最後にはそんなことはどうでもよくなってしまう。必見。
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