アーティゾン美術館のアルプ夫妻と硲伊之助
アーティゾン美術館は、今一番いい時間を過ごせる都心のスポットではないだろうか。銀座や日本橋に近い場所に広めの空間が3フロアーあって、おおむね5、6階が企画展で4階が常設で、見終わるといつも深い充実感を味わう。
今は企画展が「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」と「硲伊之助」の2つ。最初の方はアルプ夫妻だが、これまで夫のジャン・アルプは何度か作品を見たが、妻のゾフィー・トイバーは全く知らなかった。
ゾフィー・トイバーはスイスのダヴォス生まれ、ジャン・アルプはドイツのシュトラスブルク(現在のフランスのストラスブール)に生まれて1922年に結婚。ゾフィー・トイバーはテキスタイルから始まって夫と建築も手がけている。その幾何学模様は初期のクレーやモンドリアンやカンディンスキーを思わせるような美学がある。
一方のジャン・アルプはそれを少しシュルレアリスムに近づけた感じで、妻の幾何学的な発想をオブジェにしたり、レリーフやコラージュにしたり。実を言うとこれまでこの美術家は私にはピンと来なかったが、これが妻の作品の延長線上にあるとよくわかる。実際に妻の平面構成をオブジェに仕上げた作品さえあった。
芸術家夫婦は、夫が有名になって妻は身を引いて影の存在になってゆくことが多い。私が個人的に会った例だと「具体」の白髪一雄夫人の富士子さんやフランスで長年活躍した堂本尚郎夫人の毛利眞美さんなど、有名な夫の陰に隠れてしまっていた。このゾフィー・トイバーも同じかも。
硲伊之助は私は画家としてではなく、1951年に日本初のマティス展を企画した「ランカイ屋」として名前を記憶していた。ところがこれが画家として相当の力量があったことがこの個展でわかった。戦前に2度渡仏しているが、1920年代から40年代の作品にはマティスやセザンヌを思わせる魅力的な抽象化があって興味深い。
ところが同時に画商としても活躍していて、マティスを中心としてセザンヌやコローなどを日本のコレクターに収めており、それらのいくつかは現在アーティゾン美術館の所蔵となっている。戦後はマティス展のほかピカソやブラックの展覧会の交渉も担当したうえ、さらに京都で陶芸に取り組んでいる。
硲の写真を見ると画家というより、国際派のビジネスマン風。画家として十分に才能があるのに、器用貧乏というかいろいろやりすぎて評価が難しくなったタイプかもしれない。この2つの展覧会は6月1日まで。学生無料というのもすばらしい。
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