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2025年6月21日 (土)

家庭用の紙フィルムとは

「紙フィルム」という言葉を聞いた時、私はすぐにワシントンの議会図書館が所蔵するペーパー・プリント・コレクション」のことかと思った。これは映画が生まれた頃まだフィルムに著作権がなかった時に、エジソンが映画を紙に転写して収めたものだ。このおかげで映画初期の多くの作品を現在でも見ることができる。

ところが日本における「紙フィルム」は全く別物だった。以下は早大の「柳井イニシアティブ」HPから。

1932~38年の短い期間だけ、家庭用のおもちゃとして「紙フィルム」作品が売られていたのです。子どもたちは買ってもらった紙フィルムを専用の手回しの映写機で上映して遊んだようです。映像の多くはアニメーション。映画館で観る映画が白黒だった時代に、紙フィルムではカラーで印刷された鮮やかな色彩の映画が観られました」

つまり裕福な家庭の子供用おもちゃとして「紙フィルム」と映写機が売られていたようだ。私はその存在も知らなかったが、この企画は京都のおもちゃ映画ミュージアムや神戸映画資料館などが所蔵している紙フィルムをデジタル技術によって現代のスクリーンで上映するもの。

「柳井イニシアティブ」とはユニクロの柳井正氏による寄付金で、早大とUCLAの共同による日本文化研究を推進するものらしい。紙フィルムのプロジェクトはもともとアメリカの研究者の提案で研究が始まり、今回、その紙フィルムの上映会が池袋の新文芸座で開催されたので映画の周辺領域に好奇心旺盛な私は行ってみた。

すばらしかったのは、すべての映画に弁士や音楽がついていたこと。正確に言えば、同時に聞かせるレコードの音源が残っている数本はその音声だけで上映された。子供向けなので多くはアニメでかつ映画館で上映していた同時代の漫画映画(アニメ)に比べると絵は思い切り単純で何より短く2、3分が多い。

ところが弁士と音楽付きの上演になると、これが盛り上がる。素朴な絵が逆に神話的でいい感じに見えてくる。中身はのらくろとか桃太郎とか知られた内容が多い。のらくろとミッキー・マウスが仲良くなる映画もあって笑った。このあたり3人の弁士が巧みに今風のコメントを入れる。

『特急忠臣蔵』はアニメの上・下だが、ともに3分ほどで一挙に展開する。時代的に戦争ものもあり、『国防第一線』は南方のポリネシアあたりの人々の風俗を実写で見せる。『日本人ここにあり』はハルピンで生きる日本人の実写。コーリャン畑で働く人々が出てくる。1938年までなのでプロパガンダ色はさほど強くないが、それでもあちこちに「戦争」を感じさせる。

子供向けに作られた短い映画なのでお金もかかっていないし、アニメも実写もシンプルそのものだが、それが弁士や音楽と組み合わさると十分に楽しめた。これがそのまま音楽・弁士付きでDVDで販売されたらいいのに。

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