サン美と都写美散歩
サントリー美術館で15日まで開催の『酒吞童子 ビギンズ』展を見た。これは同館が所蔵する重要文化財・狩野元信筆《酒吞童子絵巻》(1522)が解体修理を終えて公開されるのを機会に、そのほかの酒吞童子関連の絵巻を見せるというもの。
「酒吞童子」という言葉は有名だが、私は何のことかよく知らなかった。これは大酒飲みの鬼で、この絵巻は平安時代を舞台に酒吞童子にさらわれた娘たちを探しに行く話のようだ。源頼光は家臣の四天王を連れて酒呑童子の住む鬼の城に行く。そこで酒吞童子にさんざん酒を飲ませて首を切り、娘たちを救う。
最後は巨大でグロテスクな酒吞童子の体が切り刻まれて血まみれになり、切られた首は飛んで離れた場所へ。これはなかなかの見ごたえだった。これに加えて、18世紀末に描かれたドイツのライプツィヒ民俗博物館が所蔵する住友廣行筆の絵巻も興味深かった。
酒呑童子は、スサノオノミコトによって酒に酔わされ退治されたヤマタノオロチの亡魂が伊吹山に飛んで伊吹明神となり、そこで生んだ息子だったという。まさかここで『古事記』の世界につながるとは。首を切られる派手なラストシーンはほぼ同じタッチ。
そのほか酒吞童子の能舞台が紹介されていたり、サン美所蔵もライプツィヒ所蔵も江戸時代には徳川家の娘が嫁ぐ際に持参した婚礼調度だったというエピソードを資料とともに見せたり、「酒吞童子」が一つの文化であり、いかにありがたいかを感じさせた。
東京都写真美術館で8日まで開催の「鷹野隆大 カスババ ーこの日常を生きるために」展とコレクション展「不易流行」は、私にはあまりピンとこなかった。鷹野隆大という写真家の名前や「カスババ」という言葉は聞いたことがあったが、見るのは初めて。「カスババ」はカスのような場の複数形で、現代の東京のどうしようもない日常のことらしい。
いかにもつまらない風景が並ぶ。あるいは自分の部屋に来たさまざまな人々。確かに現代日本の虚しさが伝わってくるのは確かだが。収蔵品による「不易流行」は逆に5つの部屋のテーマが明確過ぎて、「揃えました」という感じ。例えば第4室「写真からきこえる音」は音楽家や楽譜や時計などが写っているけれど。
どうも都写美は、TOPMUSEUMと名乗り出したあたりから迷走を続けている気がしてならないと感じるのは、私だけだろうか。
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