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2025年6月28日 (土)

堀越謙三さんが亡くなった

渋谷の映画館、ユーロスペース代表の堀越謙三さんが80歳で亡くなった。昨日の午後に知り合いから連絡が来たが、今朝になっても何度も彼のことを思いだす。考えてみたら、彼とがっぷり組んで仕事をしたことは1度もないにもかかわらず。

ユーロスペースは1982年に桜丘町にオープンし、2006年に今の場所に移った。私にとってはやはり坂の途中にあった桜丘町の方がなじみ深い。あの巨大な歩道橋を渡ってJTBの角から30mくらい坂を上った途中の2階にあった。昔は1階には堀越さんが経営するドイツ料理店もあったと思う。

1980年に福岡の大学に入って1年休学して81年から通いだした私は、学生時代はユーロスペースの名前をよく知らなかった。すぐに自主上映グループの手伝いを始めたが、そこは主にフランス映画社の作品を借りて上映していた。

最初にユーロスペースで見た映画は『秋のドイツ』だった。たぶんフランス留学の給費試験を受けに東京に行った帰りではなかったか。ファスビンダーらによるドイツのテロを描いたオムニバスだが、暗澹たる気分になった。そして買ったパンフの渋さに震えた。当時は「ユーロスペース」ではなく、「欧日協会」という名前だった。

86年に早大の大学院に入ってからは、とにかく通った。ヴィム・ヴェンダース、レオス・カラックス、ペドロ・アルモドバル、デヴィッド・クローネンバーグなどの初期作品に目を奪われた。堀越さんに最初に会ったのは、国際交流基金に就職してすぐの頃だと思う。海外から招聘した映画関係者のアポ先に堀越さんの名前があったので、自主的に付いて行った。

当時の彼はDCブランドのスーツを着て、とにかくカッコよかった。話すと実に気さくで、「国際交流イベントを日本各地の市民会館でやってうちの映画を講演会付きで上映できないかな」などと話していた。その企画は通らなかったが、いつの間にか年に何度か会うようになった。フランス映画社の故・柴田駿さんは正直怖かったが、「字幕のつけ方も知らないのに映画配給を始めた」と笑う堀越さんにはそれがなかった。

一緒に仕事をしたのは、90年のパゾリーニ映画祭ではなかったか。映画評論家の田中千世子さんの企画で私はローマのパゾリーニ財団と交渉して、全作品を上映予定だった。堀越さんは主要作品の劇場公開を考えていたので、協力してやるはずだった。ところがパゾリーニ財団の理事長で女優のラウラ・ベッティさんとの交渉が決裂して、ユーロスペースの配給作品だけが残った。

私は準備していた分厚いパンフを作り、シンポジウムを開催しただけに終わった。ユーロスペースはだんだん配給作品が減って映画館としての機能が中心になったと思っていたら、堀越さんは次々に新しい組織を立ち上げて私を驚かせた。97年にアテネフランセと共同で映画美学校を作り、2005年には何と東京芸大の大学院に映画専攻を作った。その時に「ハスミさんのメアド教えて」とメールが来たのを思いだす。

芸大を定年になった後に私の大学でも年に3、4回教えてもらった。その頃長野に引っ越したのでそろそろ隠居かと思ったら、新潟に新しい大学を作るのでいろいろ教えて欲しいと連絡があった。「客員教授にいくら払えばいいか」とか。「知らないことは聞けばいい」という腰の低さを感じた。

開志専門職大学の教授になったのが2021年だったが、それから2年後に新潟国際アニメーション映画祭を立ち上げたのには心底驚いた。彼からメールが来て「朝日」の「論座」に書くなら招待するという。2泊で行ったが、2日とも小さなホテルの朝食で彼と話したのは楽しかった。そこにはスタッフや映画関係者が入れ替わりでやってきた。顔が少し膨らんでいたので聞くと「病気で数カ月入院したから。その時に暇だったのでアニメ映画祭の立ち上げを思いついた」

その後は行っていないが、最後に連絡を取ったのは今年の3月に3回目のこの映画祭に教え子の中国人留学生を送るためだった。その時も優しく対応してくれた。

1980年代に始まった「ミニシアター」という言葉は彼と共にあった。彼は最初に会った頃に言っていた。「ミニシアターといっても、僕以外はみんな大資本だからねえ」。その洒脱な話しぶりは、好きなことを自由にやっている人間ならではだったと、今になって思う。

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