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2025年6月27日 (金)

『沖縄戦』が売れている

今年の4月に集英社新書から私の『ヌーヴェル・ヴァーグ 世界の映画を変えた革命』を含む4冊が出た。このうち、既に3刷となったのが林博史『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったか』。今年は沖縄戦から80年でこの6月23日がその終わりの「慰霊の日」ということもあり、読んでみた。

私の沖縄戦についての知識の多くは映画から来ている。このブログにもよく書くが最近だと佐古忠彦監督の『太陽(ティダ)の運命』。同じ監督の『米軍が最も恐れた男 その名はカメジロー』もそうだが、沖縄の戦後史を描いても必ず沖縄戦への言及がある。

それから三上智恵監督の『戦場ぬ止み』(2015)、『沖縄スパイ戦史』(2018)、『戦雲』(2024)。特に『沖縄スパイ戦史』は陸軍中野学校の若い卒業生たちが沖縄戦で住民を操ったさまを克明に見せた。

劇映画でも、『ひめゆりの塔』は沖縄で撮影されなかった1953年の最初の今井正監督作品から何本もある。変わったところでは『ハクソー・リッジ』というアメリカ映画もあった。これは「沖縄」という言葉をわざと避けて、戦争アクション映画として宣伝した妙な例か。

さてそうした私から見ると新書『沖縄戦』の出だしは「昔ながらの左翼」に見えた。「序」に「今日、日本が戦場になることを想定した準備が次々になされている」「狭い地域に多くの住民が住んでいる日本が戦場になるとどうなるのか。そのことを考えるための多くのてがかりを沖縄戦の経験からくみ取ることができるだろう」

しかしながら、読み進めると知らなかった事実がいくつも出てくる。海外に在留していると軍隊への徴兵が延期されるが、1935年時点で沖縄は移民が全国1位で1万人近い。そしてこの本では、帰国した元移民がガマに避難していた住民の先頭に立ってアメリカ軍と交渉して無傷で捕虜になったケースをいくつも挙げている。

もちろん日本軍は住民の米軍への投降を許さなかった。まず、住民から食料を奪い、壕から追い出した。そして集団自決を命じた。宮古・八重山などでは島民を強制疎開させて、マラリヤによる死に追い込んだ。障がい者はスパイとして殺害、拷問をした。

そして召集令状なしで少年までも「義勇軍」に動員された。「慰安所」には水商売の女性や朝鮮から来た女性たちが集められたが、軍幹部は村長に依頼して若い「愛人」を村民から集めた。すべてそれは中国で日本軍がやってきたことであった。

さて沖縄戦20万人強の死者のうち、沖縄県出身者は軍人軍属が2万8千人、住民のうち戦闘協力者が5万5千人、一般住民が3万8千人で沖縄出身者は12万2千人。人口40万の沖縄の1/4を超す。県外日本兵は6万6千人で、米軍1万3千人。

「五月末の時点で天皇も沖縄への関心を失い本土決戦準備に移っていた。しかも六月下旬には天皇は本土決戦も断念しているのだから沖縄での時間稼ぎ自体に意味がなくなる。そもそも5月末の時点で降伏していれば、兵士たちも含めて10万人以上の命を救うことができたはずである」

前にここに書いた吉田裕『日本軍兵士』には、日本人の戦没者310万人のうちうち9割は1944年1月以降と書かれている。既に敗北は明らかだった1943年末に降参していたら、沖縄戦もなく全体の戦没者は1割で済んだというから泣けてくる。

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