『雪どけのあと』にこもる熱い思い
6月14日公開の台湾のドキュメンタリー『雪どけのあと』をDVDの試写で見た。1996年生まれの女性監督、ルオ・イシャンの第一回長編というが、20代初めのとびきりつらい出来事を映像にすることで克服したような、熱い思いがじかに伝わってきた。
2017年4月26日、ネパールの山岳地帯で47日間遭難していた台湾の2人の若者が発見された。ユエは生きていたが、チュンは3日前に死んでいた。この映画を監督するルオ・イシャンはチュンと女子高時代の仲良しであり、本来ならば自分も参加する旅のはずだった。
イシャンはユエに話を聞くが、彼は半分心を閉ざしていた。報道では若い恋人同士がネパールを旅行して男だけが助かったと報じられたが、イシャンはチュンが高校時代から性自認に悩み、短髪で男性的な服を着ていたことを知っていた。
チュンは何百ページにもなる日記を残して死んでいた。イシャンはそれをまとめてチュンの本を作った。そして2人が撮った映像や写真を見て、ユエと一緒にネパールにカメラを持って行きたいと思った。結局ユエは行かず、彼女だけが2人の軌跡を追う旅に出かけた。
ユエとチュンの写真を持ってネパールの山岳地帯に出かけると、そこには彼らをよく覚えて覚えている人々がいた。「私たちをパパ、ママと呼んでいた」と語る老夫婦がいて、救助隊の男は残された物を指さし「女の子の靴だ」「このコンパスは彼らのものだ」と言った。
チュンの靴下も見つかった。イシャンは2人が残した写真を現地と見比べ、チュン本をそこに置き、その日記を読む。日記にはルシュン宛に書かれた長い手紙もあった。
私はこの映画を見ながら、自分が大学生だった頃を思い出した。もちろん私にはこんな事件は起きなかったし、そもそもろくなことはせずに日々をただ楽しく過ごしていただけだったが、それでもその頃のとびきり熱い何かが蘇る思いがした。
この映画には若い頃だけに特有の決定的な何かを追い詰めた激情が溢れており、それだけで誰が見ても心に触れる普遍的な世界に達している。映画を作りたいと思う学生や若者にぜひ見て欲しい。人の心を打つ映画は、こうした「思い」からできるものだから。
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