64歳にして帽子を買う
長い間、帽子をかぶったことがない。小学生の時は学生帽の写真があるし、巨人のGマークの野球帽もかぶっていた記憶がある。たぶん中学生になってから、帽子が面倒になったのかもしれない。あるいは当時は頭が大きいと言われていたので、帽子をかぶるとさらに大きく見えるのが嫌だったのだろうか。
高校生の頃からよく映画を見るようになり、世界で一番かっこいい男としてアラン・ドロンを覚えた。彼の主演する映画で『ボルサリーノ』(1970)が日本でヒットして、彼のかぶる帽子を「ボルサリーノ」と呼ぶらしいことを知った。
それから何年もたって、フランスに留学することになった。その頃には「ボルサリーノ」があの気取った帽子の名前ではなく、イタリアの帽子ブランド名だと知っていた。パリでは見なかったが、ローマに旅行した時にカタカナで「ボルサリーノ」と書かれた店があった。入ってみると「ボルサリーノですか?」と日本語で聞かれた。
今ならおもしろがるが、当時はそういう店が大嫌いだったのでその店には入らずじまい。それから何十年もたった。今では東京でも「ボルサリーノ」の帽子は簡単に見つかる。ある時、銀座で時間があって帽子専門店に入ったが、いろいろ試してやはり向かないと思った。
帽子は日本人には向かないかと思ったが、評論家の四方田犬彦さんなどは、いつもさまざまな帽子をかぶっていてサマになっている。彼も頭は大きいはずだが、いつもかぶっていると「彼らしい」トーンの一つとなっている。彼は外国では帽子をかぶる人が多いし、日本も昔はそうだったと言っていた。
2016年にパリに半年いた時に、世界最古の百貨店「ボン・マルシェ」の男性用帽子売り場に行った。そこに何百とある帽子からいくつかを試したが、どうもしっくり来ない。これは帽子というものは私に向かないのだと結論づけた。
ところが最近、勢いで帽子を買ってしまった。とにかく暑いので日傘か帽子が必要だと思っていたら、通りがかったカジュアルウェアの店にバケツのような帽子があった。かぶるとすっと頭が隠れて涼しそうだ。値段も安かったので買ってみた。「バケットハット」とか「サファリハット」と言うらしい。
これで調子に乗って、無印良品に行った時、野球帽のようなものをかぶってみた。これまたしっくりきたので安いこともあって買ってしまった。今年は2つで十分だが、これからは帽子も買うかもしれない。まあ、パナマハットのような気取ったのは嫌だけど。還暦を過ぎて帽子をかぶるとは思わなかった。
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