シュヴァンクマイエルの「最後の劇映画」
チェコのアニメと言えば、イジー・トルンカやカレル・ゼーマンからイジー・バルタに至るまで錚々たる天才が揃っているが、ヤン・シュヴァンクマイエルもその一人。60年代から驚異的な短編を発表し、長編『アリス』(1988)で世界を驚かせた。8月9日公開の「最後の長編劇映画」という『蟲』(2018)を試写で見た。
これが実に妙なモノだった。映画は、コオロギの格好をした男が慌てて劇場に行くところから始まる。どうもアマチュア劇団がある芝居を準備しているようで、彼は演出家も兼ねているようだ。一緒に出かけた彼の妻もコオロギを演じるが、夫がいないところでハチ役の若い男とどうも仲が良さそう。ほかにフンコロガシとかハチや寄生虫などを演じる俳優がいる。
役者たちが演じる芝居があり、彼らの日常の姿も写る。そしてあろうことか、その両方を撮影するスタッフがいてそれを指示しているのがシュヴァンクマイエル本人。私はかつて偶然にプラハの彼の自宅兼アトリエに行ったことを思いだした。このブログに書いたはずだと検索すると、2011年12月だった。
くわしくはそのブログを読んでもらえればわかるが、私は国際会議でチェコのプラハに行き、空いた時間の「遠足プログラム」で「チェコのシュルレアリスム」というコースを選んだら、実はそれはシュヴァンクマイエルのアトリエを訪ねるものだった。彼の名前を出すと集まり過ぎるから、こうしたらしい。
その時の彼は物静かであまり多くを語らなかったが、アトリエには自作の各国のポスターやアフリカの彫刻、奇妙なオブジェがところせましと並んでいた。その静かな姿がそのまま『蟲』にあった。何となくだるそうに、適当に指示を出している感じというか。ところが「想像力とは何か」について忽然と語り出す場面もある。
だからこの作品は役者たちの実生活、彼らが演じる昆虫による芝居(資料によればチャペック兄弟の戯曲『虫の生活』の第2幕「捕食生物」らしい)、そしてその撮影の様子という3層で進む。それに加えて本物の虫の映像も出てくる。これがかなりの量で相当に気持ち悪い。さらに手作りの虫も出てきて動き出す。
人形アニメも普通のアニメも実写もドキュメンタリーも演劇も映画撮影も監督の存在も、みんなすべてを飲み込んだ形で進む最高度にシュールな映画なのだ。プラハで会った時、シュヴァンクマイエルが「私は永遠のシュルレアリストだ」と言ったのを思いだした。1924年に「シュルレアリスム宣言」が出されたが、その精神は百年後のプラハにまだ生きている。
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