リュック・ムレを見る:その(1)
年に何度か日本未公開のフランス映画を見るために、東京日仏学院に行く。私の自宅から歩くと20分ほどで散歩にぴったり。今回行ったのは「リュック・ムレ特集」で、「知られざるヌーヴェル・ヴァーグ」と銘打たれていたのでドキリとした。
私が4月に出した『ヌーヴェル・ヴァーグ 世界の映画を変えた革命』は、フランスのヌーヴェル・ヴァーグを中心に世界中で起こった映画革新運動を分析した本だが、実はリュック・ムレについては全く触れていない。そこへ「知られざるヌーヴェル・ヴァーグ」と来たら、やはり気になった。
もちろん、ヌーヴェル・ヴァーグに連なる監督としてムレの名前は昔から知っていた。ところが今回なぜか抜け落ちていた。いろいろな本を参照しながら書いたはずだったが。彼の作品は1984-85年の留学時に『ビリー・ザ・キッドの冒険』(1970)を見て苦手だと思って以来、その後は見ていなかったことが無意識に反映されたのかも。
今回まず見たのは初長編の『ブリジットとブリジット』(1966)。これはパリの駅でアルプス出身とピレネー出身の若い女性が出会うところから始まる。2人はほとんど同じ格好をして同じようなスーツケースにバッグ(TWAのマーク!)を持った2人が名乗り合うと共に「ブリジット」だった。
彼女たちは田舎の高校を出てパリに出てきたばかりで、一緒のアパートに住むことになる。最初は大学の何の授業を取るかなどで和気あいあいだが、次第に学部の違いや男性関係などでうまくいかなくなる。
おかしいのは、ピレネーのブリジットの叔父としてクロード・シャブロルが現れて、彼女を世話してあげると触りまくること。本当にいかれた危ないおじさんだった。さらに映画の勉強をするアルプスのブリジットにシェレール教授として難解な映画分析をするのが、エリック・ロメール。難しすぎて何を言っているのかさっぱりわからない。
ヒッチコック、オーソン・ウェルズなどのアメリカ映画をめぐる論争が何度も出てくるが、サミュエル・フラー本人が出て来たのにはびっくり。そのほか映画マニアの1人として後に監督となるアンドレ・テシネもいた。
映画としてはいわば「笑えない喜劇」で、これは昔見た『ビリー・ザ・キッドの冒険』と同じトーンだったと思う。いかにも作り物だが、そこから妙なユーモアや時代の黒い影がふわりと漂う。
同時に見た短編の『黒い大地』(1961)はアルプスとピレネーの2つの消滅しかけた村を撮るドキュメンタリー。『ブリジットとブリジット』の2人の出身地のようだが(1つはマンテ)、全編に流れる若い女性の軽やかなナレーションが写る暗い風景と全く呼応していないのがいい。
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