『フォーチュンクッキー』の描く幸せ
イラン出身のババク・ジャラリ監督の『フォーチュンクッキー』を劇場で見た。アラブ系の若い女性が、中国人の経営するフォーチュン・クッキー工場で働いている。アメリカの中華料理店で最後に出てくる占いつきのクッキー用だ。工場はサンフランシスコだが、彼女が暮らすのは郊外のフリーモントにあるアフガニスタン人の移民が集まる地区。
夕食はアフガニスタンの店で済ませ、移民たちと家をシェアしてテレビでアフガニスタンの番組ばかりを見る。そしてなぜか不眠が続く。そんなドニアが出会うのはちょっと変わった人ばかり。
まず、睡眠薬の欲しいドニアは、知り合いのアフガン人に精神科医の診察アポを譲ってもらう。いきなりやってきたドニアに医者は当惑するが、彼女の話を聞くことに。彼女はアフガニスタンで米軍の通訳だった。通訳仲間で米国行きの飛行機に乗れなかった者もいたし、家族はアフガニスタンに残っている。話をするたびに、ドニアの表情は明るくなる。
工場の同僚の中年女性は出会いの機会がないことを嘆いている。そしてドニアにブラインドデートを誘う。彼女を雇う中国人の工場主は、クッキーに付ける言葉を書いていた年輩の中国女性が突然亡くなると、ドニアを指名する。チェックはしないから何を書いてもいいと言う。ドニアは喜んで書き始めるが、しばらくして「幸せになりたい」と書いて自分の名前と電話番号を加えた。
それをあるパーティで中年女性が読んで、クレームの電話をかけたようだ。工場主の妻は怒るが、彼は気にせず別にかまわないと言う。地球儀をドニアの前に見せて、中国とアフガニスタンが国境を接していると諭すおかしさ。
そして電話番号に「会いたい」というメッセージが来て、ドニアは会いに行く。途中で出会った自動車整備工がいい感じで、帰りにもう一度会うことになる。遠くに整備工が見える時のドニアの幸せの感じは何とも忘れがたい。
思わずあらすじをなぞったのは、全体がちょっと謎のような話だから。カウリスマキの映画のように、どの人物の台詞も動作もどこかおかしくて、妙に深みがある。もちろん根底にはアメリカのアフガニスタンからの撤退があるので、実は重い話なのだけれど。現実の重さと映画の軽みのトーンに白黒の画面がぴったりの佳作。映画好きにぜひ見て欲しい。
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