NHK「シミュレーション 昭和16年夏の敗北」を見る
NHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗北」を二晩連続で見た。ふだんテレビは見ない私がなぜ見たかと言えば、まず、猪瀬直樹の原作が出た時に読みたいと思ったことを覚えていたから。結果としては読んでいないが、心の奥で気になっていた。
そして、主役を演じる池松壮亮がこの番組にかけた意気込みを語る映像をどこかで見た。確か、最近の演技で最も力を入れたという意味のことを言っていた。調べてみると、監督は石井裕也。Nスぺが石井裕也を起用するとは、これは気合の入れ方が違うかもと思った。池松は「朝日」の記事で、5年前に石井監督から映画の話があったが頓挫したとも言っていた。
見てみると、それなりにおもしろかった。1941年4月に「総力戦研究所」の名のもとに各界の俊英が集められた。陸海軍の軍人も省庁の役人も民間企業やマスコミもいて総勢20名ほど。彼らは日本が英米と戦争した場合どうなるかを、省庁や会社の内部資料まで持ち寄って研究する。
結論は、日本は戦争しても3年ほどで石油も物資もなくなって負けるというもの。ヒトラーのドイツもしばらくはいいが、ソ連や英国が持ち直して敗れる。ソ連はドイツが負ければ日本にも攻めてくるだろう。
池松の妹役の二階堂ふみが、終盤のナレーションで語るが「二発の原爆以外はすべてが的中した」。この「日本必敗」論を8月に近衛文麿総理大臣や東条英機陸軍大臣らの前でプレゼンをするが、東条は「諸君の努力は多とするが、これはあくまで演習と研究であって、実際の作戦とはまったく異なることを銘記しておいてもらいたい」
池松を始めとして、ジャーナリストの仲野太賀、陸軍の中村蒼、企画院の三浦貴大といった面々が丁々発止で議論を進める場面が、さすがに普通のNHKの演出とは違う。顔だけの演技ではなく、全身で存在を感じさせ、画面が躍動する。そしてプレゼンの場面の爽快さ。
それを聞く閣僚の面々がおもしろい。特に近衛文麿役の北村有起哉は全く関心がなさそうに無表情で、報告が終わるとすぐ退出する。東条は何と佐藤浩市が演じているが、最初は誰かわからなかった。彼はその後総理大臣になり、必敗はわかっていながら進まざるを得ないという選択をするあたりもきちんと描かれている。
天皇役の松田龍平が抜群にいいし、彼を支えて皇族から近衛の後の首相を出さないよう勧める右大臣・木戸幸一役の奥田瑛二もぴったり。NHKだからか、大作の邦画以上に豪華な俳優を揃え、それを石井裕也が巧みに統率していた。
わからなかったのが、終わった後に研究所所長役の國村隼は、実際の所長とは異なるという説明があったこと。実際に、國村は報告を無視するが、実際の所長の飯村穣はあくまで報告を支持したらしい。それは少し前の「朝日」でも書かれていたが、これはその通りにやってもドラマに何の問題もなかったように思えたが。石井裕也監督とNHKの間に何があったのか。
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