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2025年8月24日 (日)

『アイム・スティル・ヒア』の骨太なドラマ

劇場で見たウォルター・サリス監督の『アイム・スティル・ヒア』は、久しぶりの直球の骨太な映画だった。父を奪われた家族の運命を、1970年を中心に25年後、45年後とじっくり見せてゆく。1970年、ブラジルは軍事独裁政権下にあった。かつて国会議員だったルーベンスは、リオデジャネイロで事業を起こして、妻と子供5人と楽しく暮らしていた。

大きな家は海に面した海岸にあり、みんなで出かけては8㎜に収めた。その幸せな映像が何とも愛おしい。娘の1人がロンドンに留学するのを、両親と子供たちがはしゃいで送り出す。そんなある日、秘密警察がやってきて父を拉致してゆく。それから数日後、妻のエウニセと娘一人も拘留される。

数日後2人は釈放されるが、ルーベンスの行方はわからない。エウニセは夫の友人たちの助けを得ながら、何とか探し出そうとする。しかしある時わかったのは、夫は殺されたらしいことだけだった。エウニセは住み慣れた家を売って金を得て、子供たちとサンパウロに引っ越した。再び大学で学ぶために。

先の見えない辛い日々が続く。そして1990年代半ば、軍政は終わりをつげて弁護士になった60代のエウニセは夫が拷問されて殺されたという報告書を政府に出させる。彼女を演じるフェルナンダ・トーレスが、闇に挑む25年間の闘争の時間を全身で表現する。息子は作家になっていた(この映画はこの息子の本が原作)。

そしてさらに15年後、80歳を過ぎたエウニセは子供や孫たちに囲まれて写真に写るが、ほぼ無表情で心はどこかに行ってしまった感じ。認知症かなと思うが、テレビで軍政時代を振り返る番組があり、自分の夫の名前が出てくると激しく反応する。この場面に思わず涙が出そうになった。

私は1988年秋にリオデジャネイロやサンパウロに行ったことがある。勤め始めて最初の海外出張だった。既に民主制に移行していたが、インフレがすさまじく、毎朝使うだけのレアル通貨をドルから変えた。サンパウロでは茂みには盗賊が潜んでいると日系人に言われるほど治安が悪く、リオでは総領事館の方に海岸に一人で行ってはいけないと言われた(でもやはり行った)。

映画を見て、1990年代半ばのサンパウロの描写が自分の1988年の記憶とすっと結びついた。今も日系人街は変わっていないのだろうか。もう一度、あのリオの輝く海岸に行ってみたい。

 

 

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