『8番出口』の川村流
川村元気監督の『8番出口』を劇場で見た。何となくあまり見る気が起こらなかったが、1週間で興収20億円と大当りと聞いて見たくなった。『告白』や『悪人』などヒット作をプロデュースし、小説を書き、『百花』を監督してきた「川村マジック」が効いている様子を確かめたい気がしたから。
今回は、私にはかなりの外れだった。主人公の「迷う男」(二宮和也)は、別れたはずの恋人(小松菜奈)から妊娠したという連絡を受けながら、仕事場へ向かう。地下鉄で降りて8番出口に向かうが、いつまでたっても堂々巡りで出られない。それが長回しで見せられて、落ち着かなかった。
何度も出会うのは、長身の会社員の男。それから途中で少年が現れる。さらに若い女性も。基本的にはホラーで、気持ちの悪い動物がたくさん出て来たり、あちこちに血が溢れたり、水が大量に発生して溺れそうになったり。そのどれも夢だったのか、すぐに元に戻ってしまう。
最終的にたどり着くのは恋人のイメージで、彼女と子供と海に行くシーンが何とも印象的に浮かび上がる。そういえば、冒頭で地下鉄で泣き叫ぶ赤ちゃんを抱えた女性を怒鳴りまくる男が出て来る。車内の誰もが見て見ぬふりをしており、主人公も声を掛けられない。そのシーンが終盤に蘇る。
つまり、別れ際の相手の女が妊娠したという知らせを受けて、「迷う男」は地下鉄で迷いながら、実は人生に迷っている。子供を産んでもらって一緒に暮らすべきかどうか、とんでもない勇気が必要な決断だ。地下鉄では泣く赤ん坊を抱く女をいじめる男に対して、誰も声をかけられないし自分もそうだが、それから別の人生への飛躍が始まるかどうか。
そんなヒューマンな裏構造の図式が見えてくると、私には現代風の地下鉄の謎がなんだかつまらなくなってしまったが、当たっているところを見ると一般的にはこれでいいのだろうか。
私はホラー映画はふだん見ないから、これがホラーとしてどういうレベルかはわからない。たまたま最近見た白石晃士監督『近畿地方のある場所について』」はかなりおもしろかったが、こちらは最初からどうしても乗れなかったし、途中から子供を引き受けるべきかの人生問題になってきて引いてしまった。
地下鉄の出口がいつまでたってもない、という発想自体はちょっと魅力的だけど、長編劇映画となるとなかなか難しい気がした。若い観客が詰めかけているのを見ると、私の感覚はもう古いかも。
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