『海辺へ行く道』の楽しさ
横浜聡子監督の『海辺へ行く道』を劇場で見た。これまでの彼女の映画は、ストーリーはシンプルだがなぜそんな情熱を持つのかわからない若者の爆発を描いてきた。今回は大きく違った。序盤はあまりに多くの人物が出てきて、ちょっと戸惑ってしまった。
怪しげな関西弁を使いながら実演で包丁を売りさばく謎の男(高良健吾)とその恋人ヨーコ(唐田えりか)は、四国の島のアーティスト用の住宅にやってくる。それを紹介する不動産屋の理沙子(剛力彩芽)もちょっとヘンだ。謎の男に騙されて包丁を買う付近の主婦たち。
そもそも主人公は美術に夢中の中学生、奏介なのだが、先輩の高校生は工房に籠ってヘンな作品を作っているし、後輩は超能力がある。奏介を育てている親戚のおばさん(麻生久美子)もどこかおかしい。彼はつばが異様に長い帽子をかぶったヨーコと知り合い、「A」という名刺を持つ美術評論家のような男(諏訪敦彦)に気に入られて言われるがままに作品を作る。奏介はAからたくさんの美術本を借りて読む。
理沙子は物件を紹介したアーティストのケン(村上淳)を気に入ってその家に入りびたりになるが、アーティストに金を渡して作品を作らせる仕事を始めた旧友のメグから、いきなりケンの写真を見せられる。お金をふんだくって逃げた男だと言う。
あるいは、街中では「静か踊り」という盆踊りが流行している。声を出さず、笑顔を見せずに踊るだけなのに、大勢が参加している。一言でも話すと、見張りの男から追い出されてしまう。そんなこんなで「アート」を取り囲むヘンな大人たちに囲まれながら、中学生たちはあくまで元気にアートを作り続ける。
最初は「これは違うだろう」と思っていたが、多くの物語があくまですれ違わず、それぞれにそのままおわってゆく様子がだんだんおかしくなる。撮影は実に丁寧で、島に住む子供や大人を色彩に満ちた自然の中の風景のようにとらえてゆく。2時間20分、なんとなく気持ちのいい時間を過ごしてしまった。
個人的には横浜監督のこれまでの作品の方が好きだけど、今回は転換点なのかもしれない。それにしてもこのようなわけのわからない映画にお金を出す映画会社があるのはすごいなあ。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- あっと驚く『シラート』(2026.06.15)
- 『箱の中の羊』の微妙さ(2026.06.11)
- 『霧のごとく』の重さ(2026.06.07)
- 金子修介『無能助監督日記』を読む(2026.06.05)


コメント