『ブラックドッグ』に驚く
管虎(グアン・フー)監督の『ブラックドッグ』を劇場で見た。中国の砂漠に近い町が舞台だが、その野放図な視覚的で抽象的な展開に目を奪われてしまった。映画で最初から最後までビックリし続けたのは、本当に久しぶりではないか。
ランは刑期を終えて故郷に帰るが、その途中で彼が乗るバスは犬の集団と出くわして運転手は車を横転させる。運転手は助けの車を求めて電話をするが、ランは一人で歩いてその場を去ろうとする。何より、何百という大きな野生の犬の集団が荒野を走ってゆく姿に驚く。
犬たちは横転して右往左往する人々をかまうことなく去ってゆく。やってきた警察はランを引き留めようとするが、彼は気にせず立ち去る。ある町に着くと、みんなから「予定より早く帰ってきたのか」と声を掛けられる。どうも刑務所にいたようだ。
町は野犬から狂犬病が出た知らせを受けて、犬退治に乗り出す。犬を飼っている家はお金を出さないと役所が犬を引き取ってゆく。仕事を探していたランは犬探しの仕事を引き受けるが、凶暴な黒い犬をわざと逃がして運転手をさせられる。
そうしてランは痩せた狼のような黒い犬と仲良くなっていく。ランは病気の父親を病院に入れたり、ランがかつて殺してしまった若者の叔父家族からいじめられたり、サーカス団の女性と仲良くなったり。
ほとんど物語もドラマもないが、現代中国でしかありえないような荒涼とした見捨てられた元炭鉱町で、動物園の跡地に大きな虎が住んでいるようなとてつもない場面が次々に出て来る。ランはどうもかつて有名な歌手か何かだったようで、彼の顔を見るだけで人々は優しくなる。時は2008年の北京オリンピックの時で、ラジオやテレビから開会式が流れる。
地方都市の寂れた感じやランの力強い生き方はジャ・ジャンクーの映画みたいだと思ったら、途中からジャ・ジャンクーがヤクザの親分のような役で出てきたのには腰を抜かした。彼はランの規則を守らない行動にいきり立つ若者たちを抑え、何とかランの生き方を支える、いい感じの存在だ。
あの子供が仏さんになったような顔のジャ・ジャンクーが、こんな役をするとは。後で調べてみたら、監督のグアン・フーはジャ・ジャンクーと同じく第6世代に属するという。去年のカンヌの「ある視点」部門でグランプリというが、とんでもない才能だ。
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