「絵金」を初めて見る
昔、何度か高知県立美術館と仕事をしたせいで、この美術館からは今でも案内が送られて来る。そこで開かれる展覧会のチラシなどを見るだけだが、「これは見てみたい」と思ったのが「絵金」の展覧会だった。
チラシには「絵金」とは土佐の絵師・金蔵(1812-76)のことだと書いてあったが、幕末明治期に多くの芝居絵を残した画家らしい。作品のほとんどは高知県各地の神社にあるようだが、そのおどろおどろしい絵の迫力に驚いた。グロテスクな描写は月岡芳年を思わせた。ところが彼の展覧会は一度も東京で開かれたことがなかった。
話は飛ぶが、今年の4月に出した『ヌーヴェル・ヴァーグ 世界の映画を変えた革命』で日本のヌーヴェル・ヴァーグに触れた時、中平康について書いた。フランソワ・トリュフォーが映画を監督する前の批評家時代に彼の『狂った果実』(1956)を絶賛したのだから、当然である。
秀作『月曜日のルカ』(1964)など数本に言及したが、その時にDVDや配信で見ることのできない作品に『闇の中の魑魅魍魎』(1971)があった。これがまさに絵金を描いた映画で、麿赤児が主演でカンヌのコンペに出たというから見てみたかった。
そんなこんなで「絵金 幕末土佐の天才絵師」展をサントリー美術館に見に行った。絵金は土佐藩の御用絵師に絵を学び、18歳で江戸へ出て狩野派の下で3年間修業をした。21歳で土佐藩家老の御用絵師となり、藩医の林姓を買い取った。ところが33歳の時に何かの事件で御用絵師の身分と林姓を剥奪され、ひたすら芝居絵を描くことで生計を立てたらしい。
出品された絵の多くは歌舞伎の一場面を描いたもの。歌舞伎に詳しければ「伽羅先代萩」などの題名を聞けば場面がわかるだろが、私はひたすらパネルの解説を読んでいた。どれも見応えたっぷりというか、大きいこともあって素人目にも見て楽しい。
4階から3階に行くと、いくつもの屏風絵が大きな絵馬台にしつらえてあったので驚いた。パネルによれば、高知では10ほどの神社で夏祭りに絵金の屏風絵を絵馬台に飾るらしい。展覧会ではその雰囲気を作るために、薄暗い会場にしてちょうちんの灯りで屏風絵が見える形になっていた。
その夏祭りのビデオも見ることができて、何だかお祭り気分になってしまった。一度高知に行って、お祭りを見てみたいと思った。絵金の展覧会は高知県外では、2023年に大阪、24年に鳥取で開かれただけらしい。本当にローカルな画家だが、ちゃんと地元の多くの神社で保存して祭で使うのだからすごい。
ところで、『闇の中の魑魅魍魎』は10月14日からデジタル復元版が公開されるという。これは楽しみだ。
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