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2025年10月16日 (木)

山形に少しだけ:その(2)

今回の山形では「アメリカン・ダイレクト・シネマ」の特集を中心に見た。4月に出した拙著『ヌーヴェル・ヴァーグ 世界の映画を変えた革命』で触れていないのが気になっていたから。

今回の特集は相当に充実していて、まず「ダイレクト・シネマ」が始まる前から見せる。プログラム1で、まず1945年にミャンマーで撮影された映像にリチャード・リーコックが写っていたのに驚く。リーコックはアメリカン・シネマの創始者の一人だが、従軍カメラマンだったのだ。日本軍が降伏する準備をしている暗い雰囲気が伝わってくる。

それから若いボクサーの試合を見せる『若きファイター』(53)とダンスクラブを撮った『ジャズダンス』(54)を見た時、英国の「フリー・シネマ」を思いだした。リンゼイ・アンダーソンやカレル・ライスが作った短編ドキュメンタリーはまさに同時期。

ライオネル・ローガシン監督の『バワリーにて』(56)は、酒場に集まる酔っ払いの貧しい男たちを凝視したもので、これにはちょっと驚いた。本当に何もせずに酒を飲み、路上で暮らす男たちだけを見せるのだから。

プログラム2はカナダの動きで、こちらはケベック州のカナダ国立映画庁が1958年に始めた。最初の作品である『雪靴の人たち』は雪上競歩とその後のパーティを撮っただけだが、ナレーションもなしにひたすら市民の日常を同時録音で追いかける。同年の『クリスマスを前に』も59年の『救急救命室』もさまざまな人々を追いかけるカメラの自由さが光る。

『レスリング』(61)はやらせ感たっぷりのプロレスを、それを楽しむ観客を中心に描く。見ていると何度かその中にいるような気分になってくる。これらの中心となったミシェル・ブローは、同じ年にフランスで『ある夏の記録』の撮影を担当している。

プログラム3から本格的な「ダイレクト・シネマ」となる。『予備選挙』(60)は、ロバート・ドル―製作・脚本でリチャード・リーコックほかが撮影した民主党のウィスコンシン州予備選挙だ。ジョン・F・ケネディがヒューバート・ハンフリーと戦うが、カメラは明らかにケネディ側の方を手厚くカバーする。

人々がケネディを見てまるでスターのように熱狂する場面は忘れがたい。握手をした中年女性が「もう手を洗わない」と言うのだから。カメラは手持ちでどこまでもケネディを追う。その横に寄り添うジャッキーの表情も印象的だ。

プログラム4の『危機ー大統領による介入の背景』(63)は、アラバマ州立大学での2名の黒人学生の入学をめぐっての大統領+司法長官(JFKの弟のロバート)と州知事のジョージ・ウォーレスの対決を見せる。カメラをあちこちに据えて3人の政治家の動きを刻一刻と見せてゆく。これはかなりドキドキした。

そして『11月の顔』(64)はケネディの国葬を見せる。葬儀そのものよりも、悲しむ膨大な数の市民たちの顔を見せてゆく。JFKのドキュメンタリーを2本見た後でこれを見ると、こちらも悲しくなった。

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