『ワン・バトル・アフター・アナザー』にハマる
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』を劇場で見た。この監督は大好きな映画が多いが『リコリス・ピザ』(2021)が全くピンと来なかったので、ちょっと心配だった。しかし今回はこれまでにないくらいハマってしまった。
まず私は過激派やテロリストの話が好きだ。あるいはその後日談も。この映画は冒頭、テロ集団「フレンチ75」がメキシコ国境近くの移民収容所を襲撃して解放する場面から始まる。80年代か90年代の話なのに(明示されていない)、いかにも現在アメリカで起こりそうな場面なのがおかしい。
その中心にいるボブ(レオナルド・ディカプリオ)は同志の黒人女性ペルフィディアと仲良くなるが、ボブは刑務所に入り、ペルフィディアは軍人のロックジョー(ショーン・ペン)と取引して仲間を裏切った。彼女はできた子供を残して失踪する。
ここまでが前置きで、16年後、中年になったボブは半分身を隠しながら高校生になった娘のフィラと暮らしている。そこへロックジョーが再び現れて捕まえようとする。彼のバックにはまるでトランプのような白人主義の右翼団体がいた。ボブの逃走を助けるのは、フィラが空手を習う「先生」(ベニチオ・デル・トロ)。
そしてディカプリオ、ペン、デル・トロの中年男3人組にフィラが加わった命がけの逃走と捕獲のアクションとなる。ところが男たちはみんな年を取って頭の中の理想に体がついていかず、ちょっと情けない追っかけになってしまう。そのうえ、先生の周囲にはメキシコ移民が大勢いて、彼らがボブを何とか逃がそうとする。
いろいろあって最後に無事にボブが娘に会うシーンは最高だが、それでも映画は終わらない。というか、この映画は5分先の展開が全く読めず、あちこちでありえないシーンが飛び出す。このワルノリ具合が何とも気持ちいい。最後のロックジョーのシーンには、開いた口が塞がらなかった。
要は、革命に失敗した男たちの後日談を悪ふざけで語る。しかしアクションは壮絶だ。これに現代社会への風刺をたっぷりとまぶしているのが何ともおかしい。見終わって作品の完成度からすると何だか失敗のような気もするが、映画は何でもありだからこれでいいのだと思う。
最近見たアメリカ映画で一番おもしろかった。それにしても『ワン・バトル・アフター・アナザー』という邦題はわかりにくいし覚えらえない。単に英語をカタカナにしただけで、アメリカのメジャー作品はこのパターンが多い。普通の日本語にしたら、少しは年輩の観客が増える気がするが。
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