1年ぶりのヨーロッパ:その(6)
今回6年ぶりにエール・フランスに乗ったが、機内上映のリストに日本映画がなかったのに驚いた。かつては日本便なら必ず最新の日本映画があったものだが。あるのはフランス映画とメジャーなアメリカ映画だけ。昔は日本映画のほか、韓国や欧州各地の映画も見られたが。
往復ともに夜便で行きは寝ていて映画を見る時間がなかったが、帰りは3時間ほど寝たら眠れなくなって映画を見た。選んだのはフランソワ・オゾン監督の新作『秋が来るとき』で、すでに5月に日本で公開されたが見ていなかった。
主人公は何と70歳を超した老いた女性ミシェル。近くに住むマリー=クロードと仲良くしながら、ブルゴーニュ地方の田舎で暮らしていた。夏休みに娘のヴァレリーが孫のルカを連れて来るのが一番の楽しみだったが、ある夏ヴァレリーはエレーヌと大喧嘩をして孫を連れてパリに帰ってしまう。
その頃、マリー=クロードの息子ヴァンサンが刑務所から出てきた。ミシェルは彼に仕事を与えて自立を助ける。ある時娘のヴァレリーが急死し、ミシェルは孫のルカを引き取る。ルカはヴァンサンと仲良くなるが、それからいくつかの衝撃的な事実が明らかになる。
最後に数年後、18歳になったルカがミシェルやヴァンサンと仲良くしている姿に、思わず泣いてしまった。オゾン監督はシナリオも書いているが、相変わらず設定や展開がうまい。毎回異なるテーマに取り組むが、今回は地方の高齢女性の生き方とは。
それからマリー=クロードを演じたのが何とジョジアーヌ・バラスコ、嫌な感じの40歳ほどの娘ヴァレリーはルドヴィーヌ・サニエ、ヴァレリーの死を捜査する女性刑事がソフィー・ギユマンだったのもびっくり。みんな年を取ってたなと、自分のことは忘れてしみじみ。
パリでは1本だけ映画館で映画を見た。たまたまホテルの近くで時間があったので帰国の日に見たのは、ドイツのクリスティアン・ペツォールト監督の『3番目の鏡』。この監督の映画はかつて私がやっていたドイツ映画祭で初めて紹介したが、劇場公開された『東ベルリンから来た女』(2012)がかなりよかったし、『水を抱く女』(2020)も見ごたえがあった。
今回の新作も十分に力を感じたが、いかんせん暗いし物語が少ないので公開は難しいかも。簡単に言うと、恋人との関係に悩むピアニストのラウラ(いつもの通りパウラ・ベア)は、彼とのドライブ中に事故に遭う話。恋人は死んでしまうがラウラは生き残った。
彼女が助かった様子をたまたま見ていたのは、近くに住む中年女性のベティだった。彼女は一人で住んでいて、ラウラに同居を勧める。ベティは実はある理由で夫や息子から離れていた。ラウラはこの家族の秘密を見ることになる。それは自分の傷にも跳ね返る。もちろん明るい解決はなく、暗いままに終わる。それでもこの凝視の映画は、見てよかった。
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